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尊は紅に特別な感情を抱いている。
眠る紅を見つめる尊を見た時、少しそんな気はしたが、やはりそうだったのか。
俯いたままそう考えていると、再び尊の声が聞こえてきた。
「一応言いますけど、恋愛感情は皆無ですからね。まぁ、惚れていた、と言うのは事実かもしれません。彼女は自分の役目に疑問を抱くことはありませんでしたから」
「え? でも姉ちゃんは、あんまり人を消さなかったんだろ? 矛盾してるぜ?」
狐白の言葉に、尊ではなく翡翠が目を伏せる。
「……私が、彼女に疑問を抱かせてしまったんです。私は自分の使命に疑問ばかり抱いていましたから。自分の使命に疑問を抱かない彼女に、私は自分の疑問をぶつけてしまった」
尊はまっすぐに狐白を見据え、続ける。
「自分の生きる意味が分からない。どうしてお前は自分の本能に従うのか、人を殺すことに疑問を抱くことは無いのか、と……」
「…………」
周りが静かになったような気がした。
みんな口をつぐんで、なにも言わない。
「その時から紅は、自分のすることに疑問を抱くようになってしまった。人を抹消する重圧から逃れようとして、愛情を求めた」
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