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尊はそこまで言うと、狐白に向けていた視線を自分の手に向け、一つ息をついた。
「……人間に愛された紅は、余るほどの愛情の中で役目を忘れ、そして、抹消されました。紅は私のせいで亡くなったんです」
言い終わった尊は深く俯いて、低く呟くように言う。
「自分の使命に疑問を抱かず、強く生きる彼女に憧れていた私は、そんな彼女を殺してしまったんです……」
「それは違うって。紅、言ってたよ? あんたになにも言われなかったら、自分はもっとたくさんの人を殺してしまっていたって。あんたに感謝してたよ?」
翡翠が眉根を寄せるようにしながらそう言うが、尊はなにも反応しない。
「あんたが気付かせてくれたって」
「気付かない方が良いということも、この世には存在します。私が何も言わなければ、彼女は何も苦しまず、死ぬことも無かった……」
尊は言って、深くため息をついた。
長い年月の間、尊は様々な苦しみを抱えながら生きてきた。
今、その長い年月の苦労が彼の肩にのしかかっているように見える。
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