さくら

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「何故生きているのかしら?」 肩まである、柔らかな栗色の髪を弄びながら 真由子さんはその清らかな視線で私を侵す。 「また唐突な質問ですね」 木漏れ日が気持ちよい秋の昼下がり。 しばしば真由子さんは、哲学的な質問を私に投げてよこす。 真由子さんは、質問に答えないことに憮然とした様子で 勉強机から立ち上がり窓から見える大樹を見据える。 白いワンピースが光を通し真由子さんの体のラインを露にする。 「ご覧なさいな、操。あの桜はもう何年も花を咲かせていない。 花を咲かせない桜に生きている意味があるのかしら?」 私は辞書を傍らに置くと、眩しそうに目を細める真由子さんへ歩みより、 「では真由子さん、私はかれこれ六年間、貴女の勉強を見ておりますが 貴女は私がいなくとも大変聡明でいらっしゃる」 そんな私に生きている意味があるのでしょうか? そう問うと真由子さんはやはり憮然とした様子で、今度は勉強机に戻ってしまった。 「操はいつもきちんと答えないのね」 「真由子さんがたまになさる質問は、答えがないものばかりなんですよ」 私は眼鏡をはずし、短めの黒髪をくしゃくしゃといじくった。
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