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「きっと、そうだよ……」
どうせ真相なんてそんなもんだ。
どこかの小説のヒロインでもあるまいし、流行りとはいえ殺人事件に巻き込まれるなんて馬鹿げてる。
そうに決まってる。明日の朝には清々しい日の光を浴びてるだろう。だから、今日はもう寝よう。
夕飯はいらない。シャワーなんて朝浴びればいい。
「……っ」
ケータイが鳴った。
二つ折りの黄色のそれは、僅かなバイブと共に、電波の受信を知らせた。この着信メロディの音は、メール時に鳴るよう設定したはず。
いつもなら一発で解除できる四桁の暗証番号は、指が震える奏にとって、屈強な門番にも思える。
やっとの想いで開いたメールは、愛葉からだった。
内容は無事に家に着いたことや奏の特異体質に驚いたこと、吸血鬼事件が解決したらまた遊びたいといったことだ。
かわいらしい文面の中に、清楚な感じが混じっている。彼女らしいメールと言えよう。
返信をする気力も無いほど精神がすり減った奏は、寝間着に着替えてベッドで横になった。
大丈夫。あの女性は無事だ。
そう自分に言い聞かせ、眠りについた。
翌朝のニュースで、キャスターは淡々と告げた。
『吸血鬼事件の新たな被害者です。今日の明け方ごろ発見された女性は彩桜市内の公園のベンチで倒れており──』
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