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何度目だろう。
通りすぎる同い年の視線が痛い。「見ないで!」と叫ぼうかと考えたが、それだともっと注目を浴びるからやめた。
「ああ、もう……」
いい加減、自分に呆れる。
教室の扉が開けられないなんて。
勿論、理由無しにそうなっている訳じゃない。
今朝のニュースが原因だ。
吸血鬼事件の新たな被害者。それが、発見されてしまった。
しかも、昨日の公園で。
やはり今度の事件も二十代の女性で、血液を全て抜き取られていたと、キャスターは視聴者に伝えた。
だけど、奏にとってもっとも重要なのはそこではない。発見時刻だ。
──今日の明け方ごろ。
イヤに耳に通る女性キャスターの声が、ずっと脳内で反芻される。
奏は知っていた。
第一発見者の新聞配達の人より早く、被害者の姿を確認した人物を。
昨夜に被害者が横たわる公園のベンチを、静かに見下ろしていた人物を。
奏は、知ってしまった。
クラスメイトの──桐島月光の顔をした“誰か”が、真の第一発見者なのだ。
これが示す一つの可能性。
彼が、事件の犯人だということ。
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