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体が重い、呼吸がし辛い。
だが体はなにか暖かいものに覆われている。
アルトは自身の体の異変に気が付き、ゆっくりと目を開いた。
「気が付いたかしら?」
目を開いた先にはセレの顔があった。
アルトは体を起こそうとした。
だがセレが肩を抑えてそれを止めた。
「寝てなさい。あなたは風邪を惹いたのよ。原因は分かるでしょ?」
アルトはただ黙ってその言葉に首を縦に振った。
朝から何も食べていない上に、雨の中倒れ込んでいたのだ。
風邪ぐらい惹いても不思議ではない。
と、その時アルトは部屋の中が妙に暗いのに気が付いた。
よく見てみれば窓の外は既に真っ暗だった。
家の中は蝋燭の火で照らされているので、その光だけを見ててっきり夕方だと思ったのだが……
ふと、同時にアルトは別の事を思い出した。
「セレ医務長、学園の方は……」
「処罰なら受けるつもりよ」
聞くとすぐにセレは応えた。
だが応えてすぐ、セレは若干弱々しく目を細めながらアルトに手を伸ばした。
そして、その手でアルトの頬を撫でながら、淡い口調で言った。
「……優しいのね。あんな事があったのに、私の心配をするなんて」
それを言われ、アルトは再び思い出してしまった。
そして、今度こそ現実なのだと受け入れてしまった。
ドロワさんは……死んだ。
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