傷跡

3/74
前へ
/378ページ
次へ
「ごめんなさい……」 そう告げながらセレは俯き、手を引いた。 だがアルトは首を振った。 「寿命なら仕方ありません」 そう言いながらも、アルトは内心仕方ないなどと思っていなかった。 ドロワの容体の変化にもっと素早く対応出来たら……ずっと側に居たら……そんな後悔ばかりが浮かんでは消えずに残った。 と、そこへドアを叩く音がした。 「どうぞ」 セレが応えると、戸を開けてあのブロンズの髪の女が出て来た。 マリア・ヘリーエ。 薄々気付いてはいた。 この部屋、このベッド。 ……間違いない。ここはあの女の家だ。 「……目が覚めたのね」 不安げにマリアは口を開く。 その手には、氷水の入ったボールがあった。 「ええ。熱はまだ少し上がるでしょうけど、明日には落ち着くでしょう。もっとも、彼の回復力は私も目を見張るものがあるので、もしかしたら明日にはもう完治しているかもしれません」 代わりにセレが話し、説明した。 それを聞いてアルトもマリアも、同様に安心した。 とりあえず、尾を引くような風邪じゃなくて良かった。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

695人が本棚に入れています
本棚に追加