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「良かった……」
マリアはそうホッとしていた。
だがアルトには、何故だかそれが気に入らなかった。
「……それでは、私はそろそろ失礼させて頂きます」
そう告げて、セレは部屋を出て行こうとする。
アルトは一瞬呼び止めようとしたが、その前にセレはその足を止めて振り返り、一つ告げた。
「それでは、また」
そう言い残して、セレは部屋を後にした。
アルトは最後に残されたその言葉を疑問に思った。
……また? 近い内にまた会うのだろうか?
と、疑問に思っていると、マリアがボールを持ってこちらに来た。
マリアはアルトのベッドのすぐ隣にある棚にボールを置き、その中からハンカチ程度の布を拾い上げて絞った。
そしてそれをアルトの額に乗せようとしていた。
だが、その一連の動作を黙って見ていたアルトだったが、布団から手を出してその布を払った。
マリアは手の痛みに短い悲鳴を上げ、布は壁に叩き付けられる。
マリアはしばらく手を抑えてただアルトを見ていた。
それに対し、アルトは壁側を向いてマリアから目を逸らす。
しばらく、無言でそのやりとりが続けられていた。
だがその時だった。
ガタッとドアを開く音がした。
二人は釣られるようにドアの方を見た。
するとそこには、ドアの隙間からこちらを眺める彼女が居た。
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