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違う!
アルトは布団から勢い良く半身を起こし、そう叫ぼうとした。
だが、言葉は喉に詰まり、声に出来なかった。
――何が違う。
溢れ出す感情とは裏腹に、冷静な自分はそう告げていた。
そうだと思いたくない、そんな思いは振り切りたい。
アルトは願う。
だが、願えば願う程に現実は辛くなって行く一方だった。
「やめてくれ!」
耐えきれなくなり、アルトは声を上げた。
「もう……やめてくれ」
彼女の顔を見るだけで、ドロワの死を思い出すだけで、……あの女が目の前に居るだけで、頭が嫌な感情が溢れかえる。
彼女になんと言ったらいいのか分からない。ドロワはもう帰って来ない。……どんなに願い、望んでも現実は変わらない。
何もかもが辛過ぎる。
なんでこんなにも苦しい思いをしなくちゃいけない。
「頼むから……これ以上俺を苦しめないでくれ」
苦しみに耐えかね、遂にアルトはそれを口にしてしまった。
すると彼女は泣くのを止めた。
再び部屋に沈黙が訪れる。
しばらくの沈黙の後、彼女は振り返り、ドアノブに手を掛けた。
そして、なんの言葉もなく彼女は部屋を出て行った。
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