傷跡

8/74
前へ
/378ページ
次へ
「くっ……」 アルトは奥歯を噛み締め、ベッドに再び倒れ込んだ。 一体何をやっているんだ。 自らにそう問い掛けながら、手の甲を額に当てる。 あんな事を言うつもりはなかった。 だがそれでも、あの時声を掛けたなら……例えどんな言葉であったとしても、彼女を傷付けていた。 そんな気がした。 なら正解は何だったのだろうか? 声を掛けずにただ黙り通し、苦しみに耐え続けるのが正解だったのだろうか。 それとも、今彼女を追って後ろから抱き締めるのが正解だろうか。 いや、それこそ彼女を傷付ける。 (俺は……結局どうしたらいいんだ) そう考える内に、アルトの意識は掠れていく。 熱に浮かされたのか、酷く頭が痛い。 アルトは痛みから逃げるように、そのまま意識を閉ざして眠りについた。
/378ページ

最初のコメントを投稿しよう!

695人が本棚に入れています
本棚に追加