発病

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祖父が亡くなり、 地盤沈下で建て替えを余儀なくされた家は、 私にとっての 安住の地では、 早くもなくなりかけていた。 叔母は、躁鬱病が再発し、 奇行が目立ち始めていた。 父と叔母の対立を、 恐らくは哀しみを持って、 優しく諫め続けたのは 祖母だけだった。 私が発病した後も、 祖母だけは、 私を責めるなと両親に言い続けた。 親は子を愛するのだと。 そう、言い続けた。 毎晩いさかいが絶えなくなっていた。 狂った歯車は、 かつての我が家の幻まで、 奪ってしまったようだった。 好きだった家。 大好きな家。 愛する家族。 私は自室で、 叫び声を上げて 頭を抱えた。 誰か、 誰か刃を。 さもなければ、 優しい唄を。 そうでないと私は… 「利栄や」 祖母は私に話しかけ続けた。 「お前の良いところがなくなってしまうわけじゃないよ」 「負けるんじゃないよ」 私は血走った目を 祖母に向けた。 「おばあちゃん。この家はおかしいよ。みんな狂ってる」 祖母は悲しそうな顔をして、 そっと ドアを閉めるのだった。
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