匂い

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私の家は、自営業で材木問屋を営んでいた。 家族は一番多いときで8人。 私。 二人の弟たち。 両親に祖父母。 父の姉に当たる叔母。 家長は祖父であったが、商売は父の代に移っていた。 事務所から入る正面玄関に、その脇にある祖母の出入口。 庭の逆側の、家の端まで行くと、直接二階に通じる階段のある玄関もあった。 子供時代はその言葉を知らなかったが、 今で言う二世帯住宅であり、 風呂も食事も皆で取ったが、トイレも簡単な台所も、 二階には別に作られていた。  非常に外に対して開かれた家だった。 道に面した庭は、垣根もなく一面に祖母の草花が植えられ、 春には蜂が飛んでいた。 縦長に建てられた木造二階建て二階部分の 片側全部を走る長いベランダに 蜂が巣を作るのは毎年の事で、 大抵は洗濯物を干す母が音を上げて、 父がスプレーと網を片手に駆除する流れになっていた。 今思えば少々危なかったと思う。 祖母も勇敢な質で、 一度、納戸からウサギほどもある鼠が飛び出した時、 直ぐ様竹箒で表に叩き出していた。 私は図鑑好きな子供だったのだが、 家で暮らしているだけで、 かなりの動植物、虫達にお目にかかっていたように思う。 宝探しのような毎日。 間違いなく幸せな時代だった。
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