case:壱

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        【1】  4時間目のチャイムが鳴った。聞き慣れた音を立てて開く教室の扉。そこから紺色のスーツを来た担任教師が入室しても尚、室内のお喋りは止まらない。 「はいはぁい。みんな静かに」  溜め息の後、注意。そうしてやっと静まる室内。今日もこの時間まで過ごして来たが、やはりいつも通りの流れだな、と姫神魅子(ひめがみ みこ)は教室の窓側、後ろから3番目の席で机に肘をつきながらそう思う。  退屈ないつも通り。肩まである茶髪に赤い縁の眼鏡がトレードマーク。そんな担任の女教師、結城繭子(ゆうき まゆこ)のカリスマ不足は今に始まった事では無いが、あれで児童や他の教師には人気があるので常々魅子は不思議に思っている。  つい先日も、教頭が他の男性職員と「結城先生は私達が心酔していたあのAV女優に似ている。名前だけじゃなく顔も似ている。正直たまりません」という内容の会話を廊下でしていた。立ち聞きしてしまった自分の身にもなって欲しい。  真面目で通っていた教頭なので、その時は顔も気分もブルーになった記憶がある。その場に鏡など無かったのだが、そんな気がした記憶がある。
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