12259人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「わ、高瀬さん、ずぶ濡れじゃないですか。大丈夫ですか?」
フロアに響く女子社員の声。
その出てきた名前に、わたしは条件反射のように顔を上げた。
辿った視線の先、同じ部署の先輩である高瀬陽斗(たかせはると)がちょうど中に入ってきたところだった。
雨に降られたようで、肩や髪が濡れている。
ついさっき降り始めた雨はすぐに本降りになり、今は窓の外を薄暗く染めていた。
「高瀬さん、これ使ってください。風邪引いちゃいますよ」
「ううん、大丈夫。すぐ乾くから。ありがと」
初めに声を掛けたのとは違う女子社員が、彼に薄いピンク色のタオルハンカチを差し出した。
彼はそれを軽く振った手といつもの笑顔で辞退し、こちらへと顔を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!