scene.0

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「わ、高瀬さん、ずぶ濡れじゃないですか。大丈夫ですか?」  フロアに響く女子社員の声。  その出てきた名前に、わたしは条件反射のように顔を上げた。  辿った視線の先、同じ部署の先輩である高瀬陽斗(たかせはると)がちょうど中に入ってきたところだった。  雨に降られたようで、肩や髪が濡れている。  ついさっき降り始めた雨はすぐに本降りになり、今は窓の外を薄暗く染めていた。 「高瀬さん、これ使ってください。風邪引いちゃいますよ」 「ううん、大丈夫。すぐ乾くから。ありがと」  初めに声を掛けたのとは違う女子社員が、彼に薄いピンク色のタオルハンカチを差し出した。  彼はそれを軽く振った手といつもの笑顔で辞退し、こちらへと顔を向けた。
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