scene.0

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「……美亜(みあ)は貸してくれないの?」  わたしにだけ聞こえるように耳元に落とされた声は、さっきよりも甘い。  顔を上げれば、すぐ近くに焦げ茶のたれ目を細めた意地悪い顔。  慣れているはずのその距離に、さっきからうるさい心臓はもっとスピードを上げる。  赤みを帯び始めた頬に気付かれてしまわないか気が気じゃなく、早く行け、という意味で、彼の腕を軽く小突いた。 「――今日、来れるんだったら連絡して」  ふっと抜けるように笑ったあと、そんな言葉を残し、彼は自分のデスクへと戻っていく。  熱を帯びた耳を、前に持ってきた髪で隠す。  わたしは彼の行動一つ一つに、いつもいつも振り回される。
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