12259人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「……美亜(みあ)は貸してくれないの?」
わたしにだけ聞こえるように耳元に落とされた声は、さっきよりも甘い。
顔を上げれば、すぐ近くに焦げ茶のたれ目を細めた意地悪い顔。
慣れているはずのその距離に、さっきからうるさい心臓はもっとスピードを上げる。
赤みを帯び始めた頬に気付かれてしまわないか気が気じゃなく、早く行け、という意味で、彼の腕を軽く小突いた。
「――今日、来れるんだったら連絡して」
ふっと抜けるように笑ったあと、そんな言葉を残し、彼は自分のデスクへと戻っていく。
熱を帯びた耳を、前に持ってきた髪で隠す。
わたしは彼の行動一つ一つに、いつもいつも振り回される。
最初のコメントを投稿しよう!