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………………。
賑やかな京の声も、今日はただ、騒がしいと感じる。
「………。」
「………。」
新撰組総長、山南敬介の脱走。
そしてそれを追う、二人。
いつかこうして二人で京の町を歩いたときとは真逆の、重い足取り。
そう、重く、ゆっくりと。
わかっていた。
むしろ、痛いくらいに伝わっていた。
山南敬介が脱走した理由も、土方が二人を追っ手として向かわせた理由も。
「土方さんは」
そう言いかけた瑠那の口を、沖田の手がそっと塞ぐ。
山南さんに、追いつくな。
二人に山南を連れ戻すよう告げた時の土方の声が、目が、確かにそう叫んでいた。
土方はわかっていた。
山南が、死にたがっていること。
きっと脱走した山南が戻れば、山南を快く思わない伊東やその配下一部隊士達が、彼を切腹に仕向けるに違いない。
そうでなくても、かつて近藤に刃向かった葛山のように、謹慎中に腹を切るだろう。
どちらにせよ、彼らの友である山南は、自ら死を選ぶつもりだ。
友を、あんなに強く、優しい人を
失ってたまるか……!!
わかっていたのだ、全て。
だが彼には、感情のまま動けるような立場ではない。
局中法度は、絶対であるのだ。
瑠那の口を塞ぐ沖田の目は、その全てを物語る。
土方をいつでも客観的に、しかし感情的に見てきたのは、彼なのである。
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