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隣で俺にもたれかかるように座っていたノアは不意に立ち上がり――俺の上に跨った。で、馬乗りになった。
「うえっ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……っ!
そんな俺の心境を知ってか知らずか、ノアの暴走は止まらない。
その細く、それでいて可愛らしい人差し指で、俺の胸板を服の上からなぞる。撫でる。
なんだかこそばゆい。ああ、こそばゆい、こそばゆい。こそばゆ……くなくなってきた!すっごくムラムラしてきた!
さっきからムラムラしっ放しだ!
もういっそ一線を越えてしまおうか、そんな思考が過ぎり、象り、行動になろうとした時――俺がノアの肩に手を伸ばしかけた時、糸が切れた操り人形のように、ノアはカクンと俺の胸に倒れ込んだ。
た、助かった……。
安堵。そして、違和感。というか、匂い。
やたら赤みを帯びたノアの頬から推測する辺り――。
「――酒、か?」
あれは俺用に買ってきたつもりなのだが。
誤って飲んでしまったのだろうか。
とりあえず俺はノアをベッドに寝かせ、水を一杯分、口に含んだ。
「あっぶね……」
なんだかんだでヘタレな俺。正直、安心した。
今日の出来事から得た教訓と言えば、『ノアに酒を飲ませるな』。
ノアが寝てしまったものだから、約束は廃棄されるのかと考えたが、俺が居ない時にノアが起きて、怒られても困るので俺は部屋から出られずにいた。
暇、だなあ。
なんかドカーンと事件でも起きてくれれば退屈しないん――。
ドカーンッ!
爆音が鳴り響いた。
「って、嘘やん!」
冗談のつもりだったのだが。ここまでスムーズに行くと、最早コントでもしているかのような気分になる。
「どうしたのじゃ?翔馬」
さすがに、あの音では起きざるを得なかったのだろう。ノアはまぶたを擦り、俺に訊ねてくる。
「多分、事件だな」
多分じゃなくてもそうなのだが。
こんな長閑な港町で、日常茶飯事のように爆音が鳴ってたまるか。
「つーわけで、ほら行くぞ。ボランティアだ」
もしも、魔物や魔人の類なら、一般民衆が危ない。急を要する事態だ。
わざわざ正面玄関から出るのも億劫だったので、窓から飛び降りる。ちなみに二階。まあ、そこまで高くないから怪我はしない。それに、俺たちは人外だ。
この程度の秩序(ルール)違反は許容範囲内。
「確か、こっちの方からだよな」
轟音が聞こえたと思しき方角へ、俺は足を進める。
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