第一章

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走る、走る、走る。 街の風景が流れるように入れ替わる。 そして、見つけた。 ついに、見えた。 その容貌が。その風貌が。その風采が。 「魔龍ファブニール……」 一応、龍の名を冠してはいるが、正直、見た目は龍と言えない。 知らない人なら、第一印象は、気持ち悪い巨大蛇。  Summon 「出でよ――魔剣グラム!」 現れたのは、一本の長剣。 北欧神話において、蛇となった人間を殺す剣の名を持つ剣。  AntiLost 『絶対優勢』。それが、俺に与えられた能力。 『人形遣い』を護る為の術。 神話や叙事詩に基づく、絶対的な優勢の立場を得る力。 平たく言えば、神話や叙事詩に基づく生物に対して、その中で使用された神具を呼び出す事の出来る力。 一例としては、酒呑童子相手なら、童子切安綱。 なかなか詐欺染みた能力だが、これは『使いこなせた場合』を前提とする。 いくら大義な聖剣を掲げようと、いくら大仰な名剣を振るおうと、使いこなせなければ意味がない。宝の持ち腐れ、というやつだ。 そもそも、その話の中での所有者が使った場合を百パーセントとして計算するので、原則百を超える威力は発揮出来ない。 「ノア、準備はいいか?」 「愚問じゃな」 さて――。 「ジークフリートじゃないが、勘弁しろよ?ファブニールッ!」 俺は、グラムを掲げて吶喊(とっかん)する。 俺の役割は前衛。後方支援兼封印係のノアの補佐。 「まったく、気持ち悪い見た目しやがって」 加速、加速、加速。 景色が目まぐるしく変わり、吹いていないはずの風が正面から吹き付ける。 肉薄、肉薄、肉薄。 瞬く間に、ファブニールの図体が大きくなり、視界を覆う。全長何メートルだよ、まったく。 グラムを構え、一気に斜めに引き抜く。 ファブニールの胴に薄く線が入り、そこからおぞましい体液が流れ出す。 うわ、汚っ。 「緑色とかセンス悪過ぎだろ……」 いや、センス云々の問題ではないか。 という訳で。 「緑色とか趣味悪過ぎだろ……」 俺は言い直して、独りごねた。 そして、グラムを逆手に持ち替え、逆袈裟斬り。 その勢いで身体を捻り、横から強襲するファブニールの尾の先を切断した。 そこから飛び退いて、体液を払う。構え直す。 後ろ数メートルのところにはノア。 あれだけ巨大な体躯をしていれば、あの程度の斬撃は切り傷程度にしかなり得ないのだろう。 それ程効いた様子でもない。
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