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走る、走る、走る。
街の風景が流れるように入れ替わる。
そして、見つけた。
ついに、見えた。
その容貌が。その風貌が。その風采が。
「魔龍ファブニール……」
一応、龍の名を冠してはいるが、正直、見た目は龍と言えない。
知らない人なら、第一印象は、気持ち悪い巨大蛇。
Summon
「出でよ――魔剣グラム!」
現れたのは、一本の長剣。
北欧神話において、蛇となった人間を殺す剣の名を持つ剣。
AntiLost
『絶対優勢』。それが、俺に与えられた能力。
『人形遣い』を護る為の術。
神話や叙事詩に基づく、絶対的な優勢の立場を得る力。
平たく言えば、神話や叙事詩に基づく生物に対して、その中で使用された神具を呼び出す事の出来る力。
一例としては、酒呑童子相手なら、童子切安綱。
なかなか詐欺染みた能力だが、これは『使いこなせた場合』を前提とする。
いくら大義な聖剣を掲げようと、いくら大仰な名剣を振るおうと、使いこなせなければ意味がない。宝の持ち腐れ、というやつだ。
そもそも、その話の中での所有者が使った場合を百パーセントとして計算するので、原則百を超える威力は発揮出来ない。
「ノア、準備はいいか?」
「愚問じゃな」
さて――。
「ジークフリートじゃないが、勘弁しろよ?ファブニールッ!」
俺は、グラムを掲げて吶喊(とっかん)する。
俺の役割は前衛。後方支援兼封印係のノアの補佐。
「まったく、気持ち悪い見た目しやがって」
加速、加速、加速。
景色が目まぐるしく変わり、吹いていないはずの風が正面から吹き付ける。
肉薄、肉薄、肉薄。
瞬く間に、ファブニールの図体が大きくなり、視界を覆う。全長何メートルだよ、まったく。
グラムを構え、一気に斜めに引き抜く。
ファブニールの胴に薄く線が入り、そこからおぞましい体液が流れ出す。
うわ、汚っ。
「緑色とかセンス悪過ぎだろ……」
いや、センス云々の問題ではないか。
という訳で。
「緑色とか趣味悪過ぎだろ……」
俺は言い直して、独りごねた。
そして、グラムを逆手に持ち替え、逆袈裟斬り。
その勢いで身体を捻り、横から強襲するファブニールの尾の先を切断した。
そこから飛び退いて、体液を払う。構え直す。
後ろ数メートルのところにはノア。
あれだけ巨大な体躯をしていれば、あの程度の斬撃は切り傷程度にしかなり得ないのだろう。
それ程効いた様子でもない。
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