第一章

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「そりゃないぜ。どうやってこんなデカブツ倒すんだ?」 斬撃があれじゃあな。肉弾戦は望み薄だ。 「まあいいや。斬れないならもっと斬ればいいだけだし」 「――行くぜ、デカブツ!」 刹那、俺は駆け出した。 ファブニールはそれに応えるように哮(たけ)る。 ビリビリという衝撃波をまともに受け、思わず足が止まってしまう。 次に、第二波。 それと共に現れる数多もの槍。 デカブツとしては、棘のつもりなのだろうが、如何せんサイズが違い過ぎる。 あれで腹とか抉られたら痛いだろうなあ。 「ま、当たらなければいいんだけど」 すぐに前進を再開。 俺目掛けて飛来する槍。 様々な軌道を描き、あらゆる方向から俺の命を刈り取ろうとする。 ある槍は正面から最速で。 ある槍は綺麗な弧を描いて、俺の両サイドを狙う。 またある槍は、大幅に迂回し、俺の死角を突く。 それらを俺は、グラムで薙ぐ事により防いだ。 その間も、足の動きを止める事はしない。 速く。もっと速く。もっと疾(はや)くだ。 風に乗るように。風になるように、疾く。もっと疾く。 「おらあっ!」 グラムを振る。金属音が鳴る。槍が砕け散る。 俺は肉薄する。あのデカブツに。 そして、肉薄した。 作り出した槍が無くなろうかという頃に、俺はファブニールの膝元に辿り着いた。 残された槍は、自棄を起こしたように一斉に射出された。 それを俺は、避けて、避けて、斬って、斬って、避けて、避けて、叩き斬る。最後の一本を掴み取る。 それをファブニールの腹に突き刺した。 自分で自分を刺したようなものだから気に食わなかったのだろう、ファブニールは暴れ出した。 だから、緑色の液体を振り撒くなっての。 秘密裏に毒づきながら俺は、ファブニールに突き刺さった槍目掛けて、グラムの腹を振り下ろす。 肉を裂く、嫌な音がした。 これだけ深く刺されば、さすがに効いたのか、俺はデカブツの慟哭を聞いた。 で、気付かなかった。俺のすぐ右前方、怪我を負ったファブニールの尾が迫っている事に。 これは、避けられない。 明らかに今までの攻撃より速い。 まともに入れば、致命傷は避けられない。 「っ!?しまっ――」 「――まったく。妾が居る事を忘れていた訳ではあるまいな?」 ――安心出来る声を、この耳で聞いた気がした。
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