第一章

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俺を狙った尻尾は、その何かに掻き消された。 圧倒的で、絶対的な何かに。 ――それは、銀の閃光だった。 ノアの十八番。『戦略級魔術(ストラテジー・マギクス)』第三の歌劇、 SilverBlaze 『銀の一閃』。 ノアから放たれた、圧倒的な力の奔流は、そのままファブニールの半身を抉り取り、消し飛ばす。 残虐なまでの破壊。無情なまでの暴力。冷酷なまでの一撃。 ノアの奏でる旋律に、俺は酷く戦慄した。 次の瞬間。 俺の遥か後方、ノアから無数の糸が伸びてくる。 銀色に光る糸は、ファブニールを拘束し、縛り付け、絡め捕った。 あとは、いつもと同じ。人形にして、保管するだけ。 だんだんファブニールが小さくなり、遂には小瓶に押し込まれた。 これが一連の流れ。『人形遣い』の仕事の流れ。 「使うなら最初から使えよな」 後ろを振り返りながら、俺は毒づく。 「お主も知っておろう。発動には時間がかかるのじゃ」 知っている。 「だからこそのお主じゃろう」 それも、知っている。 “魔術の準備をする”ノアを護るのが俺の――人形の役目だって事も、知っている。 「ぐっじょぶ、じゃよ」 にっこり笑顔でそう言われたら、先程までの鬱屈な気持ちが吹き飛んでしまうではないか。 「そうかい。そりゃ良かった」 だが――。 ファブニールが暴れまわった街は、見るも無惨な姿に変わってしまった。 港に隣接する青果市、雑貨屋、宿泊施設。それら全ては、ファブニールに踏み潰され、焼き払われ、瓦礫の山にされた。 住人は避難していて無事なようだが、帰るべき場所がこれでは、路頭に迷うのとさして変わらない。 瓦礫の撤去、新たな建物の建設には、時間も人手も金も必要だ。 すぐに復興しろと言っても、何年かかるか分からない。 「今回は、長居しそうだな」 俺は、眼前の惨状を見て、苦笑混じりに呟いた。 内陸部は被害ゼロだが、不幸中の幸い、という言葉が慰めにすらならない現状だ。 ここは港町。漁業で栄えてきた街。 故に、沿海部に人口が密集するのは自明の理だ。それに対して内陸部は、本当に同じ街かという疑問を抱く程に過疎化している。 正確には、宿場町。そこに定住する人は少ないという訳だ。 「こりゃ、骨が折れそうだ」 拳をぐっと握り締め。 目の前の光景をしっかりと見据えて。 俺は気持ちを新たにした。
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