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俺を狙った尻尾は、その何かに掻き消された。
圧倒的で、絶対的な何かに。
――それは、銀の閃光だった。
ノアの十八番。『戦略級魔術(ストラテジー・マギクス)』第三の歌劇、
SilverBlaze
『銀の一閃』。
ノアから放たれた、圧倒的な力の奔流は、そのままファブニールの半身を抉り取り、消し飛ばす。
残虐なまでの破壊。無情なまでの暴力。冷酷なまでの一撃。
ノアの奏でる旋律に、俺は酷く戦慄した。
次の瞬間。
俺の遥か後方、ノアから無数の糸が伸びてくる。
銀色に光る糸は、ファブニールを拘束し、縛り付け、絡め捕った。
あとは、いつもと同じ。人形にして、保管するだけ。
だんだんファブニールが小さくなり、遂には小瓶に押し込まれた。
これが一連の流れ。『人形遣い』の仕事の流れ。
「使うなら最初から使えよな」
後ろを振り返りながら、俺は毒づく。
「お主も知っておろう。発動には時間がかかるのじゃ」
知っている。
「だからこそのお主じゃろう」
それも、知っている。
“魔術の準備をする”ノアを護るのが俺の――人形の役目だって事も、知っている。
「ぐっじょぶ、じゃよ」
にっこり笑顔でそう言われたら、先程までの鬱屈な気持ちが吹き飛んでしまうではないか。
「そうかい。そりゃ良かった」
だが――。
ファブニールが暴れまわった街は、見るも無惨な姿に変わってしまった。
港に隣接する青果市、雑貨屋、宿泊施設。それら全ては、ファブニールに踏み潰され、焼き払われ、瓦礫の山にされた。
住人は避難していて無事なようだが、帰るべき場所がこれでは、路頭に迷うのとさして変わらない。
瓦礫の撤去、新たな建物の建設には、時間も人手も金も必要だ。
すぐに復興しろと言っても、何年かかるか分からない。
「今回は、長居しそうだな」
俺は、眼前の惨状を見て、苦笑混じりに呟いた。
内陸部は被害ゼロだが、不幸中の幸い、という言葉が慰めにすらならない現状だ。
ここは港町。漁業で栄えてきた街。
故に、沿海部に人口が密集するのは自明の理だ。それに対して内陸部は、本当に同じ街かという疑問を抱く程に過疎化している。
正確には、宿場町。そこに定住する人は少ないという訳だ。
「こりゃ、骨が折れそうだ」
拳をぐっと握り締め。
目の前の光景をしっかりと見据えて。
俺は気持ちを新たにした。
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