第二章

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さっぱり訳が分からずポカン顔の俺を尻目に、ファイはそそくさと行ってしまう。 そうだった。次は、応用体術の授業だ。 ファイに連れられ、長い長い廊下を歩く。 なんでまったく無駄に広い造りにしたのだろうか。移動が面倒で面倒で堪らない。 内装はいかにもといった近代西洋建築のよう。 内装は、というのは、外装が更に時代を遡ったかのような古城を彷彿とさせるからだ。 そんな校内(城内?)を歩いて、着いた先は広大な平地。東京ドームに換算する気すら起こさせない敷地面積を誇る、学院自慢のグラウンドだ。 広いに越した事はないのだが、広過ぎるのも考えものか。 離れ過ぎたら見えないし。 生徒はあらかた揃っており、不在を決め込むのは一部の不良だけ。 その目は全て俺に向けられていて――ああ、早く始めろという事か。 「じゃ、授業を始める」 授業といっても、最低限これを教えるといったマニュアルは無い。 生徒同士で組み手をさせるだとか、伸び悩んでいる生徒にちょっとした個別指導だとか、そのレベルだ。 この学院の生徒は、フィジカルに恵まれているようで、俺の存在意義は割と希薄だったりする。 「先生、今回もよろしくお願いします」 だから居眠りでもして暇を潰そうかという俺の考えを、ファイはいきなり粉々に砕いてみせた。 「たまには寝かせろ。組み手でもすりゃいいじゃねえか」 「抱き付きますよ?」 「よしやろう。そうさな。今回は五秒だ。いいな?」 「それで構いませんが、なんか釈然としないんですけど」 ぶすっと僅かに頬を膨らませるファイ。 皆の前でもこうだと、もっと人気出ると思うのだが。 「行くぞ?ごー、よーん、さーん、にー、いーち――」 丁寧にスタートまでのカウントダウンをする俺。ああ、なんて生徒思い……冗談。 「ぜろっ」 「可愛らしく言ってもダメで――きゃあっ!?」 刹那、本当に可愛らしい声が響いた。 見れば、ファイが尻餅をついている。 まあ、俺が足を引っ掛けたのだが。 「はい残念。今回のタイムはきっかり一秒でーす。もっと頑張りましょう」 「先生に丁寧語使われると、無性に腹が立つんですが」 何の遣り取りか、と言われれば、制限時間内まで立っていられるか、という一種のお遊びみたいなものだ。 「そう怒るなって」 座ったままのファイに、あえて見下ろす形で声を掛ける。
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