第二章

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「本当に体術だけはからっきしなのな」 「からっきしで悪かったですね」 ぷいとそっぽを向くが、特に怒っている訳でもなさそうだった。 「素直に訓練すりゃ、もっと良くなると思うんだが」 「そうですね。それには同意します。原因は大方、私の努力不足です」 あっさり自分の過失を認めるファイ。 その表情は――見えない。背中に隠されて、見る事が出来ない。 「完璧主義なお前が珍しいな。手抜きを自覚して――」 「でも」 俺の言葉を遮り、逆接を述べる。 「努力不足の原因なら知っています」 どうやら、逆接というのは早とちりだったようだ。どちらかと言えば、譲歩に近い。 「先生の時間を、私の存在で埋められるから」 多分、これがファイの言う原因なのだろうが、俺にはさっぱりだ。 うーん、思春期というものは難しい。 「分かりにくかったですね。簡単に言いますと、先生が個別指導と称して私と一緒に居てくれる、という事です」 「えーと……それって、どーゆー……」 原因ははっきりした。実に分かりやすい。 が、今度はそこに至る動機が分からない。 「そうですね。この際、私も腹を括ります。先生は鈍感ですから、単刀直入に言います。私は、貴方の事が好きです、“翔馬さん”」 何も言えなかった。何も、言う事が出来なかった。 一瞬、何を言われたのか理解出来なくて。理解しようとしなくて。理解したくなくて。 それでも。否が応でも、理解する。理解してしまう。 何か、言わないと。 何か――。 「えーと、いつから?」 「一年程前、ちょうど街がファブニールに襲われた時から」 「どうして?」 「一目惚れです」 「他に何か、補足説明は?」 「一年担任してもらって、改めて好きになりました。結婚を前提にお付き合いください」 「…………」 って、うわあぁぁぁ。 馬鹿なの?死ぬの?何訊いてんの?何訊いてんの俺。無粋にも程があるじゃん。最悪だあぁぁぁ……。と、頭を抱え込んで深く自己嫌悪。 「先生ってば、意外と恋愛初心者?二百年も生きてるのに?」 今度は、俺が見上げる番だった。 訊ねるファイの表情が見えた。 何か吹っ切れたような、清々しい笑顔。 「うっさいな。俺はノア一筋なんだ。告白なんて、した事もされた事もない」 「うわ、同情を通り越して引きますよ?二百年の間、何してたんですか?」 グサリ。なかなかい、言ってくれる。 自己嫌悪すら塗りつぶしてしまうネガティブに襲われそうだ。
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