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「本当に体術だけはからっきしなのな」
「からっきしで悪かったですね」
ぷいとそっぽを向くが、特に怒っている訳でもなさそうだった。
「素直に訓練すりゃ、もっと良くなると思うんだが」
「そうですね。それには同意します。原因は大方、私の努力不足です」
あっさり自分の過失を認めるファイ。
その表情は――見えない。背中に隠されて、見る事が出来ない。
「完璧主義なお前が珍しいな。手抜きを自覚して――」
「でも」
俺の言葉を遮り、逆接を述べる。
「努力不足の原因なら知っています」
どうやら、逆接というのは早とちりだったようだ。どちらかと言えば、譲歩に近い。
「先生の時間を、私の存在で埋められるから」
多分、これがファイの言う原因なのだろうが、俺にはさっぱりだ。
うーん、思春期というものは難しい。
「分かりにくかったですね。簡単に言いますと、先生が個別指導と称して私と一緒に居てくれる、という事です」
「えーと……それって、どーゆー……」
原因ははっきりした。実に分かりやすい。
が、今度はそこに至る動機が分からない。
「そうですね。この際、私も腹を括ります。先生は鈍感ですから、単刀直入に言います。私は、貴方の事が好きです、“翔馬さん”」
何も言えなかった。何も、言う事が出来なかった。
一瞬、何を言われたのか理解出来なくて。理解しようとしなくて。理解したくなくて。
それでも。否が応でも、理解する。理解してしまう。
何か、言わないと。
何か――。
「えーと、いつから?」
「一年程前、ちょうど街がファブニールに襲われた時から」
「どうして?」
「一目惚れです」
「他に何か、補足説明は?」
「一年担任してもらって、改めて好きになりました。結婚を前提にお付き合いください」
「…………」
って、うわあぁぁぁ。
馬鹿なの?死ぬの?何訊いてんの?何訊いてんの俺。無粋にも程があるじゃん。最悪だあぁぁぁ……。と、頭を抱え込んで深く自己嫌悪。
「先生ってば、意外と恋愛初心者?二百年も生きてるのに?」
今度は、俺が見上げる番だった。
訊ねるファイの表情が見えた。
何か吹っ切れたような、清々しい笑顔。
「うっさいな。俺はノア一筋なんだ。告白なんて、した事もされた事もない」
「うわ、同情を通り越して引きますよ?二百年の間、何してたんですか?」
グサリ。なかなかい、言ってくれる。
自己嫌悪すら塗りつぶしてしまうネガティブに襲われそうだ。
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