第二章

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「先生、聞いてる?」 「聞いてる聞いてる。そうだな……」 しばらく逡巡した後。 「えいっ」 オスカーを空高く投げ飛ばした。 「ちょっ!?え、えぇぇっ!?」 「オスカー。その状態で魔術でも使ってみてくれ。何でもいいから」 高く飛び上がったオスカーに声を掛ける。 「自分で飛んだならまだしも、空中で体勢崩されて魔術が使えるかあーっ!」 「空中で体勢を立て直すのも、体術の一つだぞ」 これでオスカーも分かっただろうか。 これは一例に過ぎないのだが、なかなかいい具体例だと我ながら思う。 上昇速度を減速させ、一瞬止まった後、今度は下降してくるオスカー。このままだと、地面と正面衝突。 初速度六十キロメートル毎時で投げ上げたから、衝突直前の落下速度も六十キロメートル毎時。 なかなかピンチである。 「先生!助け――」 ふわり。 地面から数センチメートルの所で、オスカーの落下速度がゼロになる。 俺の魔術が発動したのだ。中身はありふれた空気操作。 この学院の生徒なら、ほとんど全員が使えるであろう、基礎魔術。 「どうだ?分かったか?」 「全然」 落ち着きを取り戻したオスカーはしれっと言った。 「あんな状況になってたのにか?」 まさか、ここまで阿呆だとは思わなかった。 分からないのか、分かろうとしないのか。 或いは、勘違いをしているのか、履き違えているのか。 「だって、あんな状況にはならないし。僕は――」 「後方支援だから、とは言わせないぞ?」 どうやらそれが図星だったらしく、オスカーは黙ってしまった。 「何故、“後方”だと断言出来る?それは、何を基準にしての“後方”だ?」 あえて遠回しな言い方で。 何も知らない人間には、自分で理解させる。自分で、考えさせる。 別に、答えが出る事を期待している訳ではない。 ましてや、理想の回答を得られるとも思わない。 考える、その過程が重要であり、本質なのだ。 「そ……れは、仲間が居るから?」 自信なさげなオスカーは、文末を疑問形にする。 「その仲間とやらは、いつでも居るのか?いつまででも居るのか?この学院を出た後も一緒に居るのか?」 大分核心に迫った問い。 ファイなら、この時点で絶対に気付くのだが。というか、最初から分かっている。 「いや、そういう訳じゃ……」 「じゃあ、その時お前は?頼れる仲間が居ない中、相手の攻撃を一手に引き受けて、相手に攻撃するのは誰だ?」 ここでようやくオスカーの目が見開く。
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