第二章

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「あ……あ、ああ。そういう事」 オスカーの顔が、驚愕から納得に変わる。 「その顔は理解したみたいだな」 「ようやくです」 「まったく。ダメ生徒を持つと苦労するよ」 「その生徒を空中に放り投げた先生が、それを言う?」 尤もだ。 とまあ、このように時間は流れていき、太陽と月は入れ替わる。 昼と夜が逆転する。 ちょっとしたデスクワークを片付け、俺は学院を出ようとした。 そこに。 「待ちくたびれたぞ。翔馬」 愛する人が居た。 白い息を吐き、手を擦り合わせる。 さぞ寒かった事だろう。ノアには悪い事をした。 「悪い。待たせた」 「妾を待たせた罰じゃ。手を握れ。そして、温めろ」 ぷいと、顔だけ背けるノアの手を、しっかりと取る。 その小さな手はとても冷たくて。 「バカ。こんなになるまで待たなくてもいいんだよ。何度言ったら分かるんだ」 「バカ。こんなになるまで待たせるでない。何度言ったら分かるのじゃ」 俺の精一杯の反論を、ノアは皮肉で返してくる。 もう本当に、これだから――。 「早く帰るぞ、翔馬」 「そうだな。今日は、温かいスープでも作るか」 そうじゃな、それがいい――。 ノアの震える声は黒き虚空に消え、静寂だけが残る。 吐く息は相変わらず白い。 適度に冷たい陸風は颯爽と駆けていき、その風に揺られて草はざわめく。 そんな中で俺は思うのだ。 ――――と。 明くる朝の事。 ノアと手を握ったまま寝ていた事に気付いた俺は、この手をどうしようか、考えていた。 普通に離せばいいと思うのは、ノアに対して興味がない証拠。 俄然俺は、興味津々だった。 とりあえず、手は握ったままにしておこう。 空いているもう片方の手で以て、何をしようか。 ノアの身体をまさぐる……のはさすがにまずいか。 ノアのなだらかな胸を揉み立てる……のもまずいか。局地的になっただけだし。 さんざん悩んだ挙げ句、ノアの頬を弄ぶに留める事になった。 ぷにぷに。ああ、ぷにぷに。本当に俺より年上なのだろうか。まあ、不老不死だから、当たり前か。 となると、果たしてノアは何歳で『人形遣い』になったのだろうか。 見る限り、十代前半。予想を裏切ったとしても、いいところ十代後半。 そんな時期に、悠久の時を生きる覚悟を?あ、俺もか。 底抜けに柔らかいノアの頬を弄りながら、そんな事を考える。
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