第二章

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とは言っても、そのほとんどは初等教育課程で終了なので、教える事は何一つ無い。 基本的に、座っているだけ。楽でいい。 「まあ、職務怠慢は私が許さないんですけど」 ファイー。出来れば、静かに寝させてほしかった。 「授業なんて、出来ないぞ?」 すでに敗走気味だったが、せめてもの反論を口にしておく。 「じゃあ、やっぱり私の個人指導で」 やはりこうなるのか。 本人も、それとなく嬉しそうなので、断るに断れない状況だった。 逃げる事は諦め、立ち向かう事にする。 例えば、不意を突いてくすぐって、そのまま逃げるとか――捕まった後が怖いので却下。 訂正。立ち向かう事も諦める必要がありそうだ。 「私、先生の事諦めませんよ?」 したたかだなあ。いや、感心している場合ではないのだけれど。 「お前と俺じゃ、住む世界が違い過ぎるんだよ」 これは嫌味でも何でもなく、れっきとした事実。 「知ってます」 「俺、人間じゃないし」 「知ってます」 「俺、不老不死だし」 「知ってます」 あれ。教えただろうか。 不死はともかく、不老であるのには間違いない。 もうかれこれ二百年は生きている。 人間は、有限だ。 身体も、人生も、何もかもが。 住む世界が違う、とはそういう事だった。 にも関わらず――前述の事実を知っているにも関わらず、ファイはその決意を撤回しない。 「そこまで拘る程、価値のある男じゃないけどなあ、俺」 「自分を卑下しないでください。それじゃあ、私の目が腐ってるみたいじゃないですか」 腐ってるんじゃないか?とは口にしなかった。 ファイが励ましてくれているというのが容易に想像出来たからだ。 「ありがとな。でも今はとりあえず授業だ」 「じゃあ、今日は『生殖について』を――」 「悪いな。保健は担当してないんだ」 ファイってこんなキャラだったのか? 少し予想外――だけど、こっちの方が俄然親しみやすい。 「勿論、実技――」 「頼む。それ以上は言わないでくれ。俺の中での、お前のイメージが崩れる」 頼むとは言っているが、気付けば俺はファイの口を塞いでいた。 もごもごとそれを抜け出して、ファイは続ける。 「女の子って、意外とえっちなんですよ?表に出さないだけで」 「謝れ。全国の女の子に謝れ」 なんだって、こんな会話をしているのだろう。 というか、この体勢は些かまずい。 口を塞ぐ為とは言え、つい背後を取り、口に手を回した。
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