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――これって、見ようによっては、後ろから抱き付いているようではないか?
そう思った時、反射的にファイから離れていた。
「せ、先生。私、先生なら、大丈夫ですから……っ」
「何が!?何が大丈夫なの!?」
「せ、先生になら、何されても……」
「念の為に言っておくと、俺、無理矢理押し倒したりなんかしてないからね!?」
ついでに言えば、今ここに傍目は無い。ここは教室ではない。
入っていく時に見えたプレートには、個人指導室と書かれていた。
イケナイ感じがプンプンするが、きっと気の所為である。
ファイは、その指導室に設けられたベッドに座っていた。
何故、ベッドがあるのだろうか。つまりあれか、『あんな事』や『こんな事』をしろと言っているのか。そんな訳ないか。
無意識的に鍵を掛けた密室で、二人きり。相手はベッドに座り、胸元を隠すように両手を組み、それでもその赤く染まった顔でこちらを見ている。
……これって、据え……膳というものなのだろうか。
据え膳食わぬは何とやらという、ありがたいのかよく分からない金言があるが、今はそういう状況なのだろうか。
「……いや、そういう事はしないから、安心しろ」
俺がそう言うと、
「そうですか。それは残念です。既成事実の一つでも作ってやろうかと思ったんですけど」
なんて事を、しれっと口にした。
「……末恐ろしいな」
「恋する乙女は、いつでも本気ですよ?それこそ、怖いくらいに」
「ああ、肝に銘じておくよ」
ファイの意外な一面を見た一日。
「今日も待っててくれたのか」
「当たり前じゃ」
嬉しい事を言ってくれる。
「まだ、暖かくならないな」
「そうじゃな。まだ寒い」
そんな淡泊な会話をしながら歩く。
「こんな日には、素肌と素肌を触れ合わせて、お互いを温めるのが――冗談だから、その目はやめろ」
俺の熱弁は、ノアの白い目により、強制終了。言論の自由もあったものじゃない。あ、ここ、日本じゃないのか。
「まあ、冗談はさておき。夕食はどうしようか」
「たまには外食でもしようかの」
なんだか懐かしい響き。最後に外食をしたのは、確か二年前。
……って外食?それって、俺の料理を食べたくないって事?
「お主の料理は絶品じゃから!そのような、捨てられた子犬のような目をするでない!」
俺、そんな目してたの?
いや、そんな事はどうでもいいか。
ノアが、俺の事を褒めてくれた訳だし。
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