第二章

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――これって、見ようによっては、後ろから抱き付いているようではないか? そう思った時、反射的にファイから離れていた。 「せ、先生。私、先生なら、大丈夫ですから……っ」 「何が!?何が大丈夫なの!?」 「せ、先生になら、何されても……」 「念の為に言っておくと、俺、無理矢理押し倒したりなんかしてないからね!?」 ついでに言えば、今ここに傍目は無い。ここは教室ではない。 入っていく時に見えたプレートには、個人指導室と書かれていた。 イケナイ感じがプンプンするが、きっと気の所為である。 ファイは、その指導室に設けられたベッドに座っていた。 何故、ベッドがあるのだろうか。つまりあれか、『あんな事』や『こんな事』をしろと言っているのか。そんな訳ないか。 無意識的に鍵を掛けた密室で、二人きり。相手はベッドに座り、胸元を隠すように両手を組み、それでもその赤く染まった顔でこちらを見ている。 ……これって、据え……膳というものなのだろうか。 据え膳食わぬは何とやらという、ありがたいのかよく分からない金言があるが、今はそういう状況なのだろうか。 「……いや、そういう事はしないから、安心しろ」 俺がそう言うと、 「そうですか。それは残念です。既成事実の一つでも作ってやろうかと思ったんですけど」 なんて事を、しれっと口にした。 「……末恐ろしいな」 「恋する乙女は、いつでも本気ですよ?それこそ、怖いくらいに」 「ああ、肝に銘じておくよ」 ファイの意外な一面を見た一日。 「今日も待っててくれたのか」 「当たり前じゃ」 嬉しい事を言ってくれる。 「まだ、暖かくならないな」 「そうじゃな。まだ寒い」 そんな淡泊な会話をしながら歩く。 「こんな日には、素肌と素肌を触れ合わせて、お互いを温めるのが――冗談だから、その目はやめろ」 俺の熱弁は、ノアの白い目により、強制終了。言論の自由もあったものじゃない。あ、ここ、日本じゃないのか。 「まあ、冗談はさておき。夕食はどうしようか」 「たまには外食でもしようかの」 なんだか懐かしい響き。最後に外食をしたのは、確か二年前。 ……って外食?それって、俺の料理を食べたくないって事? 「お主の料理は絶品じゃから!そのような、捨てられた子犬のような目をするでない!」 俺、そんな目してたの? いや、そんな事はどうでもいいか。 ノアが、俺の事を褒めてくれた訳だし。
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