第二章

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「今度は、ぶんぶんと振り回す尻尾が見えるぞ……」 なるほど、我ながら単純で現金な人間だ。 でもきっと、それでいい。それがいい。 「港の定食屋が、つい昨日再築して、今日再開したのじゃ」 納得。そういう事か。 「じゃあ行こうか」 ノアの手を取り、歩き出す。 あの定食屋は、ここから徒歩十分。 その十分間、俺たちは無言だった。 ノアが何を考えていたのかは分からないが、俺は、この繋がれた手が恋人繋ぎだったらなあ、などと妄想していた。 さすがに、ナンセンスか。 そんな事をしている内に、定食屋に到着。中へと足を踏み入れる。 「いらっしゃい……って、ノアちゃんと……彼氏?」 やった。人形から彼氏に昇格だ。 「違う。彼氏違う」 ノアは、恥ずかしいからなのか、元来の人見知りからなのか、どうにも片言だ。 「あなたが翔馬君?」 ノアに続いて、俺に話し掛けてきたのは、温厚そうな女の人だった。 年は、三十代後半か、四十代前半。パーマでもないのに、ウェーブがかった髪を揺らして、訊ねてきた。 「はあ、そうですけど」 いきなり話を振られ、俺は素っ気ない言葉しか返せなかった。 目の前の女性はそれを聞くと、「ふんふん。へー、そーかそーか」と、品定めでもするかのような目で、俺を見回す。 「どうかしたんですか?」 「いやあ、ノアちゃんが、いっつも翔馬翔――んぐ」 「ストップ、ストップ!それ以上はストップなのじゃ!」 何故かノアは慌てて、女性の口を塞ぐ。 見た目通りの、愉快犯気質と言ったところだろうか。 「そうじゃ!夕餉じゃ!妾たちは夕餉をとりに来たのじゃ!」 早口でまくし立て、店内の椅子に飛び乗るように座った。 それにしても、店内には、男の人が見当たらない。 居るのは、この女性――と、その娘と思しき人。 「あの……ご主人とかは?」 「死にました。一年前、この街が襲われた時に」 ――ああ、またアイツか。 こんな平和な家庭にまで、遺恨を残しやがって。 「失礼な事を訊いてすいません」 「いいのよ、別に」 そう言う女性は、やはりどこかで無理をしていた。 「……どうして」 気が付けば、少女がそこに居た。多分、この人の娘にあたる人。 小さく肩を震わせて、俯いて。 それでも、何かを言おうとして。 「どうして、もっと早く助けに来てくれなかったの!?」 そんな少女の口から発せられた言葉は、酷く現実を嘲笑うかのようなものだった。
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