第二章

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「ちょっと!リン!いい加減になさい!」 女性が少女を制するが、少女はそれをものともしない様子で続ける。 或いは、周りが見えていないのか。 「私、知ってるんだから!あなたが、あの怪物を倒した事!しっかりと見たんだから!」 見た目は、十二歳頃。 バッと顔を上げた時に、その茶色ショートヘアが小さく跳ねた。 「どうして、もっと早くに来てくれなかったの!?どうして、お父さんを助けてくれなかったの!?」 悲痛な叫びだった。 「だから、リン――」 「ごめんな?君のお父さんを助けてやれなくて。まあ、正確には俺だけじゃないんだけど」 腰を落として、目の高さを合わせる。 少女の顔は、ぐしゃぐしゃだった。 「本当にごめんな?」 その頭を撫でてみた。 撫で方など知らないので、若干粗暴になるのは致し方ない事だ。 「こんな事したって、機嫌直さないから!ふんっ!」 ふいと俺の腕を振り払って、トコトコと店の奥に駆けてしまったリン。 まあ、慣れてはいるのだが。こういった、ある意味理不尽な怒りの矛先を向けられるのには。 「本当にすいません。お詫びにはならないでしょうが、お代は頂きません」 母親は頭を下げて、そう言った。 実年齢は俺の方が遥かに上なのだが、永遠の十七歳を気取っているつもりなので、大の大人に頭を下げられるのは、あまり良い気にはならない。 「頭を上げてください。あなたが気にする事じゃありません。慣れてますから」 一方的に話を終わらせ、ノアの向かいに座る。座敷席だ。 「どうしよっかなー」 メニューを開いて、しばし熟考。 ノアはと言うと、「あれにするか、それとも、これか。いや、それも捨てがたいな」と、見ていて飽きない迷い方をしていた。 値が張る品物は無いので、財布の中身を心配する必要はない。 メニューの一角を見たところで、これだ、と思った。 静かになったと思ったら、どうやらノアも決まったようで。 「あ、すいませーん」 女性を呼ぶ。 ちなみにこの人、名前はリッカと言うらしい。ノア曰わく、だ。 「ご注文は何でしょう」 リッカさんは、伝票を片手にそう訊ねた。 ここで、どちらが先に言うか、譲れば良かったのだ。 「この、照り焼きグリル定食を一つ」「この、照り焼きグリル定食を一つ」 こうして、ハモる事もなかったのだ。 「…………」 「気が合うのね」 クスリとリッカさんは笑っていたが、出来ればそれは言ってほしくなかった。
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