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「ちょっと!リン!いい加減になさい!」
女性が少女を制するが、少女はそれをものともしない様子で続ける。
或いは、周りが見えていないのか。
「私、知ってるんだから!あなたが、あの怪物を倒した事!しっかりと見たんだから!」
見た目は、十二歳頃。
バッと顔を上げた時に、その茶色ショートヘアが小さく跳ねた。
「どうして、もっと早くに来てくれなかったの!?どうして、お父さんを助けてくれなかったの!?」
悲痛な叫びだった。
「だから、リン――」
「ごめんな?君のお父さんを助けてやれなくて。まあ、正確には俺だけじゃないんだけど」
腰を落として、目の高さを合わせる。
少女の顔は、ぐしゃぐしゃだった。
「本当にごめんな?」
その頭を撫でてみた。
撫で方など知らないので、若干粗暴になるのは致し方ない事だ。
「こんな事したって、機嫌直さないから!ふんっ!」
ふいと俺の腕を振り払って、トコトコと店の奥に駆けてしまったリン。
まあ、慣れてはいるのだが。こういった、ある意味理不尽な怒りの矛先を向けられるのには。
「本当にすいません。お詫びにはならないでしょうが、お代は頂きません」
母親は頭を下げて、そう言った。
実年齢は俺の方が遥かに上なのだが、永遠の十七歳を気取っているつもりなので、大の大人に頭を下げられるのは、あまり良い気にはならない。
「頭を上げてください。あなたが気にする事じゃありません。慣れてますから」
一方的に話を終わらせ、ノアの向かいに座る。座敷席だ。
「どうしよっかなー」
メニューを開いて、しばし熟考。
ノアはと言うと、「あれにするか、それとも、これか。いや、それも捨てがたいな」と、見ていて飽きない迷い方をしていた。
値が張る品物は無いので、財布の中身を心配する必要はない。
メニューの一角を見たところで、これだ、と思った。
静かになったと思ったら、どうやらノアも決まったようで。
「あ、すいませーん」
女性を呼ぶ。
ちなみにこの人、名前はリッカと言うらしい。ノア曰わく、だ。
「ご注文は何でしょう」
リッカさんは、伝票を片手にそう訊ねた。
ここで、どちらが先に言うか、譲れば良かったのだ。
「この、照り焼きグリル定食を一つ」「この、照り焼きグリル定食を一つ」
こうして、ハモる事もなかったのだ。
「…………」
「気が合うのね」
クスリとリッカさんは笑っていたが、出来ればそれは言ってほしくなかった。
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