第二章

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「綺麗に重なるなんて、どれだけお似合いなんだろうね」 出来れば、追い討ちをかけるような事も言わないでほしかった。 「お、お似っ……」 顔を真っ赤にして、呂律の回らない口を動かして、ノアはリッカさんの言葉を反芻……出来ていなかった。 一応、意識してくれている、と認識してもいいのだろう。というか、そうであってほしい。俺の些細な希望的観測だ。 かく言う俺もまた然り。俺たちは、茶化された付き合いたてのカップル然たる紅潮具合だった。 「はい、照り焼きグリル定食二つね」 それからほどなくして、料理が運ばれてきた。 で。 「あの……食べづらいんですが」 「私に構わず、続けちゃって」 「いや、見つめられても困るんですけど」 そういう事だった。 リッカさんは何故か、俺たちから目を離そうとしない。無銭飲食の心配でもしているのだろうか。 「再開してから初めてのお客さんだから、つい」 「繋がりませんからね、そこ。さも自然な流れのように言わんでください」 「あらそう。じゃあ、店の奥からこっそり覗き見するわね」 「もう勝手にしてください……」 折れた。これは、俺が折れた。 それを聞くやいなや、リッカさんこそこそと店の奥に戻り、頭半分だけ出した。 じーっ。 じーっ。 じーーーーーーーーーーっ。 食べづれえ……。 何あの生温かい目線。 だがノアは、それをものともせず、照り焼きグリル定食に食いつく。 いや、単にやけ食いしているだけか。余程、恥ずかしかったらしい。 まあ、食べるしかないのかね。 結論から言えば。 完食だった。 美味だった。 でも、やはりアレだった。 勘定を済ませ、店をあとにする。 冷たく撫でる潮風が、火照った身体に心地良い。 が。どうやら、食後の運動をしないといけなくなったようだ。 食後のデザートではなく。断じて。 店を出た俺たちは、屋根から屋根へと伝う不審な物影を見つけた。 暗くてよく見えないが、それが人だという事は辛うじて確認出来た。 まさか、一年越しの火事場泥棒という事はないだろうが、このまま見過ごす訳にもいくまい。 本当に食後だったので、正直気は乗らないがやるしかない。 そう奮起する。 「ノア。適当に魔術でも編んでてくれ。出来れば、あまり怪我させないやつ」 「うむ、善処する。が、保証は出来ん。翔馬は――」 俺? 俺の仕事は肉体労働だぜ?
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