55人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「待てやこら!」
待たないとは思いつつも、そう叫んでしまう。
相手は、足が意外と速く、身のこなしも軽い為、なかなか追い付けないでいた。
魔術は、使えない。
下手に脚力を増幅した足で踏み込んだ拍子に、バキッと屋根が抜ける虞があるからだ。
近所迷惑甚だしいが、そこは勘弁してほしい。
ちょこまかと逃げ回られて、思うように捕まらない。仕方ないので、飛び道具を使う事にする。
AntiLost
『絶対優勢』は、相手が人間(と思われる)なので、使えない。
使うのは、基礎魔術。火の玉を飛ばしたり、風を吹かせたりする、アレである。
「この魔術で怪我をしても、当社は責任を負いませんよ、っと!」
特に聞いてはいないだろうが、そう言っておく。
「っらあっ!」
魔力を練って、火球に具象化。それを相手目掛けて投げつける。
まあ、動きが直線的過ぎるので、ヒョイと避けられるのだが、実はこれ、追尾(ホーミング)機能搭載だったりする。というか、俺が勝手に付けた。
相手の横を通り過ぎた火球は、無茶苦茶な軌道を描いてターン。また直線的に相手を狙う。勿論、これも避けられる。
まあ、誰も火球が一つだとは言っていないのだけれど。
え?性格悪い?知ってる。
そんな訳で、空飛ぶ火球は、いきなり炎が小さくなり、くすぶり出す。
そして、二つに分裂した。
はい、鬼ごっこ再開。捕まったら負けの、単純なゲーム。まあ、捕まった場合、怪我は必至なのだが。
性格の悪い俺は、ここで三球目を投下してやる。
その間、スピードが落ちた相手に、俺はちゃっかり接近する。
そこで――人相が確認出来た。
完全に手こずっている相手に、俺は声をかける。
「何してんだ?ファイ」
火球を消す。どうやらもう逃げるつもりはないらしい。
「先、生……」
良かった、合ってた。これで間違っていたらどうしようかと思った。
ファイが何をしたのか、何をしようとしたのかは把握しかねるので、追及は出来ない。
「……ストーカーです」
いきなり何を言い出すの、この娘。
「あっはっはっはー。そうかそうか、俺をストーカーしてたのがバレて逃げたのかー」
「悔しいけど、その通りです」
「……え?」
冗談のつもりだったのだが。
あれ、何この空気。凄く居づらい。むしろ逃げたい。
「お前がストーキングされてるじゃなく?」
「はい」
「お前がストーキングしてると?」
「はい」
「しかも、俺を」
「はい」
ナンテコッタイ。
こりゃたまげた。
最初のコメントを投稿しよう!