第二章

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「待てやこら!」 待たないとは思いつつも、そう叫んでしまう。 相手は、足が意外と速く、身のこなしも軽い為、なかなか追い付けないでいた。 魔術は、使えない。 下手に脚力を増幅した足で踏み込んだ拍子に、バキッと屋根が抜ける虞があるからだ。 近所迷惑甚だしいが、そこは勘弁してほしい。 ちょこまかと逃げ回られて、思うように捕まらない。仕方ないので、飛び道具を使う事にする。  AntiLost 『絶対優勢』は、相手が人間(と思われる)なので、使えない。 使うのは、基礎魔術。火の玉を飛ばしたり、風を吹かせたりする、アレである。 「この魔術で怪我をしても、当社は責任を負いませんよ、っと!」 特に聞いてはいないだろうが、そう言っておく。 「っらあっ!」 魔力を練って、火球に具象化。それを相手目掛けて投げつける。 まあ、動きが直線的過ぎるので、ヒョイと避けられるのだが、実はこれ、追尾(ホーミング)機能搭載だったりする。というか、俺が勝手に付けた。 相手の横を通り過ぎた火球は、無茶苦茶な軌道を描いてターン。また直線的に相手を狙う。勿論、これも避けられる。 まあ、誰も火球が一つだとは言っていないのだけれど。 え?性格悪い?知ってる。 そんな訳で、空飛ぶ火球は、いきなり炎が小さくなり、くすぶり出す。 そして、二つに分裂した。 はい、鬼ごっこ再開。捕まったら負けの、単純なゲーム。まあ、捕まった場合、怪我は必至なのだが。 性格の悪い俺は、ここで三球目を投下してやる。 その間、スピードが落ちた相手に、俺はちゃっかり接近する。 そこで――人相が確認出来た。 完全に手こずっている相手に、俺は声をかける。 「何してんだ?ファイ」 火球を消す。どうやらもう逃げるつもりはないらしい。 「先、生……」 良かった、合ってた。これで間違っていたらどうしようかと思った。 ファイが何をしたのか、何をしようとしたのかは把握しかねるので、追及は出来ない。 「……ストーカーです」 いきなり何を言い出すの、この娘。 「あっはっはっはー。そうかそうか、俺をストーカーしてたのがバレて逃げたのかー」 「悔しいけど、その通りです」 「……え?」 冗談のつもりだったのだが。 あれ、何この空気。凄く居づらい。むしろ逃げたい。 「お前がストーキングされてるじゃなく?」 「はい」 「お前がストーキングしてると?」 「はい」 「しかも、俺を」 「はい」 ナンテコッタイ。 こりゃたまげた。
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