第二章

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愛しの先生と別れた私は、割と真っ直ぐ、特に寄り道をするでもなく、自宅へと向かっていた。 もとより、目的は先生のストーカーだけだったので、私の興味を引くような店、或いは物、が無かった、というのが現状だ。 『異性をオトす、百の魔法』というタイトルの本に、若干気が惹かれたが、所詮それまで。 買うに及ばず、読むに値しなかった。 何故なら、私たちは魔術を使う存在だ。魔法とか、胡散臭いにも程がある。魔術は、そんな便利なものではない。 仮に、そんな便利な力があったとしても、それを使う事はない。実力で。自力で、地力で、先生を手に入れてみせる。 それが、近年稀に見る、私の確固たる意志。心髄に焼き付けた意思。 そんな桃色の話に浮かれていた私は、近年稀に見るピンチを迎える事になる。 生死に関わる程の、大事件を。 いや、実際に一度、死んだ――のかもしれない。 俺は、ノアと共に夜の街をほっつき歩いていた。ファイにああ言いはしたが、どうやら人の事は言えないらしい。 「この街も、大分元通りになってきたな」 そうなのだ。当時――ちょうど一年前、ファブニールに為す術なく蹂躙されたこの街は、荒廃するしかなかった瓦礫の街は、ものの見事にその原形を取り戻しつつある。 それは、紛れもなくノアの面目躍如たる活躍であり、ノアとこの街――ハルヴァスの住人の努力の結晶だ。 それなのに。 現実は、残酷だった。奇である前に、冷酷だった。 突如、後方で爆音が響いたと思えば、家屋が炎上していく。 正直、嫌な予感しかしない。 後方。そっちは確か、ファイが向かった方ではないだろうか――。 「くっそ、間に合えよ!」 踵を返して、脚部に力を込める。 魔力も出し惜しみなしで。最初から、魔術を全開にして。 一刻ですら、今は惜しい。 「翔馬っ!?」 ノアに構っている暇ですら、惜しい。 あの会話からは想像出来ない程、ファイは優しい。底抜けに、優しい。 だからきっと、厄介事に、自ら首を突っ込んでしまう。或いは、もう突っ込んでしまっている。 俺は一気に駆け出した。初速から全速力で。 ファイの許へと、急いだ。 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。 翼を生やした異形――明らかに人間ではない――が舞い降りたと思ったら、直後に周りが消し飛んでいく。 雑貨屋も食堂も呉服屋も青果市も。何もかも。
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