第二章

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そこにぽっかりクレーターが出来たように。 何もかもが、消し飛んだ。 それはいつしかの悪夢の再来のようで。悪い夢を見ているようで。早く、夢から醒めてほしいと思った。 でも。 一年前と、何も変わらなかった訳ではない。 私は、必死で魔術を会得した。あの人に憧れて。恋い焦がれた人に憧れて。 届いたとは思わない。 離されないようにするので精一杯で。 そんな人だったら、今どうするだろうか、と考える。 まあ、助けるのだろう。他を退ける絶対的な力があるから。 私にはそれがない。 絶対的な力も、圧倒的な力も、優越的な力も。 だが私は、あの人の生徒だ。少なくとも、素で心配される程には、大切な(なお、この件については、脈ありだと思っている)。 そんな生徒のピンチに、先生が駆けつけないはずがないのだ。 私は、そんな的外れで愚かしい思考に動かされた。 授業で習った通りに、魔術を編み出す。 それは、世界が変わっていく工程。事象が構築される過程。 そして、魔術が発動した。   ValkyrieVeil 「『戦乙女の羽衣』!」 暴虐の限りを尽くして破壊される街を守る魔術。と同時に、私の存在を相手に認識させてしまう魔術。 ちなみに先生曰わく、ヴァルキリーとは元々非戦闘要員なのだとか。 「女に戦わせるかよ普通」と、恰好良い事も言っていた。あ、ヤバい。思い出したら、惚れ直した。 その台詞に照らし合わせれば、私も戦わなくても良くなるのだが、まさかそういう訳にはいくまい。 先生は、遥か後ろのはずだし、もとより、無抵抗に破壊されていく街を、指をくわえて待っていられる程、私は大人ではない。いや、それを大人か否かの判断材料にするのもどうだろうか。 そう、私は、大人しい訳でもなければ、思慮分別がある訳でもないのだ。    SlashBlow 「『鎌鼬は空を斬る』!」 先手必勝という名の不意打ちである。 不可視の刃と化した旋風が、相手――おそらく魔人――に向かって一直線に飛ぶ。 遠慮ない、と言うか、容赦ない気はしたが、そうでもしないとこちらがやられる。 殺傷力を持った風が、その表面に触れようかというところで、パァンとはじけた。 クリティカルヒットは望んでいない。クリーンヒットもまた、望んではいない。 それ程のダメージを負うとは思っていなかったが、全くの無傷というのも予想外だった。 チラと、その双眸がこちらを向いた。その目には、酷く歪んだ炎。
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