第二章

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どうやら、敵と認識されたらしい。当たり前か。 魔術を編み、待機させておく。 微動だにしなかった魔人の腕が、僅かに動いた――。 一瞬、私は、何が起きたのか、分からなかった。 呼吸が出来ない。背中が痛い。魔人が――遠い。 ああ、これが本当の魔術。言うなれば、魔法。 咳き込む。血は出ない。まだやれる。 じんじん痛む頭を起こし、状況を把握。 多分、相手が使った魔法に吹き飛ばされ、民家に突っ込んだのだろう。 それにしても、あの速さ、あの早さは反則じゃなかろうか。 魔術を発動する時間さえ、与えてくれないのか。もっと真面目に体術を学べば良かったと軽く後悔。 しかし――。 「『文句を言う前に、まずはやれ』」 いつしか先生が、私に言った言葉。当時、ぐれていた私を救った、先生の言葉。 そう。やるしか、ないのだ。 とは言っても。 「ぶっちゃけ、勝ちは望み薄ですからね。早く、助けに来てくださいよ、先生」 来てくれるかも定かではないのに、何の根拠もなしに、そう口にしていた。 早く、助けに来てくださいよ、先生。 何故か、そう催促された気がした。 誰かに、そう催促された気がした。 それこそ、何の根拠もなかったが、それをものともしない確固たる自信があった。自信というよりは確信。確信というよりは確証。 「早く助けに行くから、死ぬなよ、ファイ」 より一層、足に力を込めて、そう口にした。 愛って素晴らしい。 私は確かに受け取った。先生の気持ちを。先生の意思を。 紛れもない愛の力で、だ。 うん、愛って素晴らしい。未だに一方通行なのが気に食わない。いつか全線開通、上下線開通にしてやる。 だから。 それまでは、死ねない。死なない。死にたくない。死ぬつもりもない。 まだまだ不恰好で、分不相応だけど。いや、分不相応だから、私はあくまで保身的に、街を守りたい。      AngelField 「『可憐な天使は天で踊る』」 出し惜しみは出来ない。最初から、全力で。 そもそも、全力なんて、出した事もなかったが。 だから、換言するなれば、最初から、本気で。 解き放たれるは、不可侵の領域。魔が届かない絶対聖域。   Mother'sLullaby 「『さあ詠いましょう』」 私は歌う。その詩を。 私は唄う。その歌を。 私は謡う。その唄を。 私は詠い、私は謳う。その――神話を。
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