第二章

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魔の存在を排除する、無差別で理不尽な狂詩曲。 魔人は頭を抱えて呻いていたが、ふと、“私以外の何か”を見て、笑った。 視線を辿ると、そこには一人の子供――逃げ損なったのだろう、五、六歳の男の子だ。 まさか。 まさかまさか。 魔人は、頭を片手で押さえながらも、もう片方の手で槍を作り出し――子供に投擲した。 魔術は? 使えない。この状況で、更に魔術を編み出す事など、出来ない。 走れば、届く。まだ時間は経っていない。 迷うな。即決しろ。その足を、前へ出せ。 「……ぁ」 その槍を腹部に受け、仰向けに倒れ込む。 心臓には当たっていないようだが、上手く呼吸が出来ない。血がどんどん流れ出ていくのが分かる。 即死ではなくとも、致命かもしれない。 死ぬかもしれない。死にたくない。 そう思ったのに――。 「ファイ!?しっかりしろ、ファイ!」 私は死ぬほど嬉しくなった。 「……先、生」 「何も言うな!言わなくていいから!死ぬ事だけは考えるな!」 こんなにも私に必死になってくれる先生を見て、嬉しくなった。 「好きな人の腕に抱かれて死ぬって、存外幸せなんですね」 息も絶え絶えのはずなのに、何故かはっきりと言える。 「でも唯一心残りがあるとすれば、先生とえっちな事が出来なかった事でしょうか」 先生の制する声も聞こえない。聞かずに、私は続ける。 「こんな事になるんだったら、強引にでも押し倒せば良かっ――」 私が最後に感じたのは、先生の心音だった。 事切れた。 プツンと、操り人形の糸が切れたように、ファイは俺の腕に垂れ下がる。 事切れた。 そうは、思いたくなかった。いや、未だに思っていない。 だからまずは――。 「俺とファイの逢瀬の邪魔をした不貞な輩の処分だな」 ファイを安全な所に寄りかからせ、立ち上がる。立ち上がり、魔人を睨み付ける。睨み付けて、言い放つ。 「勘違いするなよ?殺し合うんじゃなくて、殺し尽くすんだ。俺が、お前を、一方的に」 静かな怒りに動かされ、俺は静かに宣言する。 「五秒だ。五秒でお前を、消してやるよ。跡形もなく、な」 いつしかのファイのように。 五秒の制限時間を設ける。 それは僅かな慈悲の心から与えられたモラトリアム。 無慈悲な余命の宣告。 「じゃあ、スタート――」 俺の声で開始。 「ごーっ」 まずは、右足を消し飛ばす。 道具を使ったとかではない。純粋な暴力でだ。
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