第二章

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最初の一撃を呆気なく食らう魔人だが、この動きに着いてこられない訳ではあるまい。 ただ、油断しただけだ。その油断が命取りなのだが。 「よーん」 続いて右腕を狙う。片足でバランスを取る魔人は、それに反応し、左の拳を飛ばしてくる。 「さーん」 路線変更。 俺に吸い込まれるようにして近付く拳を、一番に消す。 続いて、ご無沙汰していた右腕。 「にー」 四肢の内、三つを失った魔人は、完全にバランスを崩し、地に倒れる。 そして、残虐に。残酷に。冷酷に。冷徹に。 殴打。殴打、殴打。 何十、何百という拳を叩き込む。 「いーち」 殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴殴打殴打殴打打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。 もしかしたら。 この時点で、すでに原形を留めていなかったかもしれない。すでに、肉塊だったかもしれない。 そして。 「ぜろっ」 汚物を燃え散らした。 宣言通り、跡形もなく。灰燼と化した。 「翔馬ー……って、あれ?魔人はどうしたのじゃ?」 遅れてノアがやってくる。 「悪い。消しちまった」 何度でも言うが、ノアの仕事は、『人形』集め。魔人や魔獣を、人形にして、保管する。 「らしくも……お主、泣いておるのか?」 言われて。 「んな訳ね――」 反論しようとして。 出来ない事に気付いた。 泣いている事に気が付いた。 「そうだ!ファイ、ファイは!?」 急いで駆け寄り、生死を確認する。 確認する。 確認する。 確認――出来ない。分からない。 生きているのか、死んでいるのか。息をしているのか、していないのか。心臓が動いているのか、動いていないのか。 分からない。 分からないのだ。 「どうしようノア。ファイが死んじまう……!」 俺の使える魔術に、治癒系はない。 ノアに縋るしかなかった。 「ファイというのは、そこのおなごか。何を今更。何百何千と人の死を見てきたじゃろうが」 「そうだけどっ、そうじゃなくて……っ、魔術で何とか出来ないのか?」 俺に出来なくても、ノアになら――。 「お主も知っておるじゃろう。魔術では、致命傷を治せん」 知って――いた。けど、認めたく、なかった。治せる魔術がない事を。ファイが助からないという現実を。 「そんな……」 「もう一度言おうかの。魔術で人は治せない」 「本当にどうにかなら――」 「じゃが」 そう制されて。 「“魔術で人形を直す事は出来る”」 提示された代替案は、残酷な選択肢だった――。
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