第三章

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遠巻きに見ているだけでは、状況を把握しかねるな。 もう少し近付くべきだろうか。 そう思い、屋根に飛び乗る。住居侵入とか言うな。今更だ。 「――お前、父親居ないんだろー?捨てられたんじゃねー?」 ああ、そういう事か。 言葉を拾って、ようやく理解した。 状況を、ではない。リンが、あそこまでに父親に固執していた訳を、だ。 これは助けに行くべきだろう。 「複数の男の子が、寄って集って女の子をイジメるなんて、いけ好かんなあ」 声を張り上げた訳ではないが、下方に居る少年たちには聞こえたはずだ。 キョロキョロ辺りを見渡している。 そこで俺が――屋根の上から飛び降りる。 「はいっ、どーん」 と、セルフ効果音を付けてみるが、リアル効果音に掻き消されて何も聞こえない。残念至極。 モクモクと、特殊効果のスモークばりに粉塵が舞い上がる。やべっ、くしゃみ出そう。 塵埃が晴れた後には、既に誰も居なかった。 あまりの衝撃(物理的な意味でも、精神的な意味でも)に、思わず逃げてしまったのだろう。 「よ、また会ったな」 軽いノリで、リンに話し掛ける。 「いきなり何しに来たの」 随分冷めた態度を取るリン。この手のノリには付いて来られないらしい。 「いや?たまたま通りすがっただけ」 「嘘。だってずっと聴いてたもん。屋根の上で」 なんと、気付いていたのか。少しびっくり。少し感心。 しかし、可愛くない。と言うと可哀相なので、子供らしくない、と訂正しておく。 「なんか困ってるっぽかったし」 嘘は吐いていないはずなのに、何故か睨まれる俺。 「別に、助けてなんて言ってない」 「言ってないな」 それは意地っ張りの詭弁だ。ちっぽけなプライドが、依存心の存在を許さないのだ。 「俺が勝手に助けただけ。まあ、お節介ってやつだな」 揚げ足を取る隙は与えない。 「まあ、間接的に理由を作ったのは俺だしな」 けど、反論の糸口なら与える。 何の、とは口にせずとも、リンなら理解する。 理解、した。 「あなたが、もっと早くに助けてくれれば……よかったのに」 怒気が強まると思っていた俺の予想に反して、リンの声はだんだん小さくなっていく。 「……本当は分かってる。こんなの八つ当たりだって。分かってるけど」 それは酷くか細い声。 虚空に消えていく、弱々しい声。 しかし随分とアタマノイイ悩み方だ。ぶっちゃけ気に食わない。 だから言う。だから言ってやる。
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