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「うらあぁぁぁっ!」
全くもって現実味を感じさせない轟音が、辺りに鳴り響く。
俺は、大剣を片手に駆け出した。
人知を超えたスピードと、人知を超えたパワー。
俺はすでに、人知の存在ではなかった。
「翔馬!何をしておる!」
後ろから声が聞こえてくるが関係無い。
構わず俺は突貫する。
ずんぐりした腕が俺を捉える。
俺は、それを避ける事なく受け止めた。
今、俺たちが対峙しているのは、正真正銘の悪魔。イビルだ。
悪魔というのは多種多様で、姿形は決まっていない。
こうして俺が熾烈を極めているのは、悪魔の中でも最もポピュラーな形。人型。
但し、細部は、人間のそれとはかけ離れている。どこぞのB級映画に出てきそうな容貌を想像してもらえばいいだろうか。
「翔馬、そこを退け!」
あの人が俺に命令をする。
彼女は、『人形遣い』だった。
彼女の仕事は、命令を下す事。
『人形』である俺の仕事は、命令を遂行する事。
身体を半歩分、左にずらす。それと同時に、俺の右を駆ける白銀の閃光。
その正体は糸。『人形』を操る為の手段。『人形』を拘束する為の方法。
あの人から伸びた銀色の鉄糸は、悪魔の動きを止めてみせた。
「うらぁっ!」
そこを見逃す俺ではない。大剣で以て、悪魔を一閃。腹から上下に両断した。
そして、すぐに飛び退く。
少しばかり浴びてしまった、悪魔の体液に、小さく悪態をつき、あの人の隣に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「それはこっちの台詞じゃ!たわけ!し、心配したじゃろうがぁっ……」
言葉が勢いを無くし、尻すぼみになる。
――何故、そんな悲しい顔をするのか。
「あー、そういえば、腹を貫かれたんだっけ」
「本当に、心配したんじゃぞ……」
彼女の言葉が嗚咽に変わる前に、俺は彼女を抱き寄せた。
「大丈夫だよ。何年一緒に生きてると思ってんだ。俺は不死身だぜ?」
そう言って、シニカルに笑ってみせるが、その実、物凄く痛い。痛い。痛過ぎる。
「馬鹿者!妾たちは、不老ではあっても、不死ではないんじゃ――」
「知ってる。ちなみに、二三○年くらい一緒に生きてるぞ」
愛する人の台詞を遮って尚、泣かせたりはしない。
「妾が言っているのは、そういう事じゃないんじゃ――」
「だったら」
再度言葉を遮って。
俺は。
あの人に。
口付けた。
但し、額に。
「な、なあっ……」
動揺している彼女に、くすりと微笑みかけて、言葉を続けた。
「早く、修理してほしい」
敢えて、皮肉っぽく。
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