第一章

2/12

55人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「うらあぁぁぁっ!」 全くもって現実味を感じさせない轟音が、辺りに鳴り響く。 俺は、大剣を片手に駆け出した。 人知を超えたスピードと、人知を超えたパワー。 俺はすでに、人知の存在ではなかった。 「翔馬!何をしておる!」 後ろから声が聞こえてくるが関係無い。 構わず俺は突貫する。 ずんぐりした腕が俺を捉える。 俺は、それを避ける事なく受け止めた。 今、俺たちが対峙しているのは、正真正銘の悪魔。イビルだ。 悪魔というのは多種多様で、姿形は決まっていない。 こうして俺が熾烈を極めているのは、悪魔の中でも最もポピュラーな形。人型。 但し、細部は、人間のそれとはかけ離れている。どこぞのB級映画に出てきそうな容貌を想像してもらえばいいだろうか。 「翔馬、そこを退け!」 あの人が俺に命令をする。 彼女は、『人形遣い』だった。 彼女の仕事は、命令を下す事。 『人形』である俺の仕事は、命令を遂行する事。 身体を半歩分、左にずらす。それと同時に、俺の右を駆ける白銀の閃光。 その正体は糸。『人形』を操る為の手段。『人形』を拘束する為の方法。 あの人から伸びた銀色の鉄糸は、悪魔の動きを止めてみせた。 「うらぁっ!」 そこを見逃す俺ではない。大剣で以て、悪魔を一閃。腹から上下に両断した。 そして、すぐに飛び退く。 少しばかり浴びてしまった、悪魔の体液に、小さく悪態をつき、あの人の隣に駆け寄る。 「大丈夫か?」 「それはこっちの台詞じゃ!たわけ!し、心配したじゃろうがぁっ……」 言葉が勢いを無くし、尻すぼみになる。 ――何故、そんな悲しい顔をするのか。 「あー、そういえば、腹を貫かれたんだっけ」 「本当に、心配したんじゃぞ……」 彼女の言葉が嗚咽に変わる前に、俺は彼女を抱き寄せた。 「大丈夫だよ。何年一緒に生きてると思ってんだ。俺は不死身だぜ?」 そう言って、シニカルに笑ってみせるが、その実、物凄く痛い。痛い。痛過ぎる。 「馬鹿者!妾たちは、不老ではあっても、不死ではないんじゃ――」 「知ってる。ちなみに、二三○年くらい一緒に生きてるぞ」 愛する人の台詞を遮って尚、泣かせたりはしない。 「妾が言っているのは、そういう事じゃないんじゃ――」 「だったら」 再度言葉を遮って。 俺は。 あの人に。 口付けた。 但し、額に。 「な、なあっ……」 動揺している彼女に、くすりと微笑みかけて、言葉を続けた。 「早く、修理してほしい」 敢えて、皮肉っぽく。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加