第一章

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「全く……お前という奴は。無茶ばかりしおって……」 そうやって、愚痴を言いながらも、俺の治療をするあの人。 うん。可愛い。 「ごめん」 「許さん」 「ごめんってば」 「今回こそは許さん」 「ごめんよ。ノア」 愛する人の、名前を呼ぶ。 「っ!?ず、ずるいのじゃ!そうやって言われたら、許してしまうではないか……」 しゅん。そう言ってうなだれるノアは、やっぱり可愛い。 尤も、俺が好きになったのは、容姿だけではないのだけれど。 「そういえばさ、人形はどうなった?」 容態も良くなってきたところで、俺はノアに訊ねた。 「ちゃんとあるぞ?」 『人形遣い(ミストレス)』の仕事は、悪魔狩り。 倒した悪魔を、『人形』にして捕獲する事。 「なら良いや」 それ以上の問いは無い。必要ない。 ノアの魔法もあってか、怪我は九割方治った。 だが、ノアは念の為寝てろと言う。 まあ、心配そうな目で見詰められたら、素直に頷くしかない。 本当にずるいのはノアなのではないだろうか。 不意に頭が持ち上がる。直後、柔らかな感触が後頭部を包み込んだ。 健全な男子なら、一度はしたいと憧れるシチュエーション。気恥ずかしくなるイベント。 つまりは膝枕だった。 場所的には太腿枕じゃね?と思った人は、決して少なくない筈だ。まあ、どうでもいい事ではあるが。 「どうじゃ?」 目的語が無かったが、問題はない。 「ああ、気持ち良い。最高だ」 俺は手放しで褒め称える。 だって事実だから仕方ない。 「そっ、そうか。それは良かった」 照れくさそうにノアは微笑んで、俺の頬にその手を添えた。 ああ、可愛い。 その後の会話は無かった。 ただ、俺はノアの膝枕を堪能した。舐め尽くすように堪能した。 一瞬、うつ伏せになって、その太腿を舐めてしまおうかと考えたが、そんな事をしたら嫌われる事間違いないので、敢え無く断念した。 今度、断りを入れてみようかと思う。 「なあノア」 俺は彼女の名を呼んだ。 勿論、「貴女のその太腿を舐めても良いですか?」などと訊く為ではない。 「なんじゃ?」 「お人形さんごっこが終わったら、どうしよっか?」 お人形さんごっこ。その終わりがいつになるかは分からない。 だが、俺達が久遠の存在であるが故、必ず終わりは訪れる。 それこそ、世界の終焉などという事態でも起きなければ。 「……そうじゃな。どこか遠い所にでも旅に行こうかの」 ノアの顔に陰りが差す。 だがそれも一瞬の事。
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