第一章

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だが悪くない。 隣に。 俺の隣に、愛しい人が居るのなら。 不老だって不死だって、何だってなってやれる。 俺達の旅は、まだ始まったばかりだ。 それから歩く事程なくして――それでも数時間単位だが――、とある街が見えてくる。 中世ヨーロッパを彷彿とさせる、バロック洋式の住居、建築物。 更にその奥。若干霞がかって見えるのは、高くそびえる時計塔。おそらくはこの街のシンボルだろう。 「とりあえず、宿を探そうか。流石に、一週間も野宿は飽きる」 「そうじゃな」 宿、といっても、向こうの世界のそれとは随分勝手が違う。 一種の娯楽施設ではなく、泊まる為だけの施設。 こちらの世界では、各地を旅して回るという事が、さほど珍しいものではない。 すると必然的に、旅人は宿泊出来る機能だけを求めるようになる。 加えて、その数も多いので、比較的安価で一夜を越す事が出来るのだ。 勿論、それを払うくらいの金はある。 最近ではようやく名が知れて、色々な依頼を請け負うようになった。 人畜有害の作物荒らしの退治や、護衛が一番多かったりする。 この街でも、五年程滞在するつもりだ。 こうして、世界を転々として今に至る、という訳だ。 「どうする?ノア」 「妾はどこでも構わん」 「じゃあ防音設備万全の宿に――」 「お主は一体、何をする気じゃ……」 「何って、そりゃあ」 「妾を変な目で見るでない!」 熟れたリンゴのように、顔を真っ赤にして俺を見つめる。 可愛い……じゃなくて。言いたいのは別の事。 「変な目ってな……二百年以上もお預け食らってるこっちの身にもなってくれ。俺でなければ、夜中に襲われてるぞ」 ノアは大抵、この手の会話、しかも押しに弱い。 「ううっ……。し、翔馬は、したいのか?そ、そういう事」 急にしおらしくなるノア。効果は覿面(てきめん)って訳だ。 「したい。したいけど、ノアに嫌われるよりはマシだからしない」 ありのままをぶつけると、ノアは――。 「わわわ妾は翔馬がどどどどうしてもと言うなら、か、構わんぞ?」 動揺する。 「ま、何度も言ってるけど、無理をする必要はないよ。ノアの方からその気になったら言ってくれ。俺はいつでもウェルカムだから」 それを俺が冗談めかして宥める。 毎度決まったパターンだ。 これが結構面白いから止められない。いつもと違うノアが見られるので、三ヶ月に一回くらいはこんな遣り取りをする。
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