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だが悪くない。
隣に。
俺の隣に、愛しい人が居るのなら。
不老だって不死だって、何だってなってやれる。
俺達の旅は、まだ始まったばかりだ。
それから歩く事程なくして――それでも数時間単位だが――、とある街が見えてくる。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる、バロック洋式の住居、建築物。
更にその奥。若干霞がかって見えるのは、高くそびえる時計塔。おそらくはこの街のシンボルだろう。
「とりあえず、宿を探そうか。流石に、一週間も野宿は飽きる」
「そうじゃな」
宿、といっても、向こうの世界のそれとは随分勝手が違う。
一種の娯楽施設ではなく、泊まる為だけの施設。
こちらの世界では、各地を旅して回るという事が、さほど珍しいものではない。
すると必然的に、旅人は宿泊出来る機能だけを求めるようになる。
加えて、その数も多いので、比較的安価で一夜を越す事が出来るのだ。
勿論、それを払うくらいの金はある。
最近ではようやく名が知れて、色々な依頼を請け負うようになった。
人畜有害の作物荒らしの退治や、護衛が一番多かったりする。
この街でも、五年程滞在するつもりだ。
こうして、世界を転々として今に至る、という訳だ。
「どうする?ノア」
「妾はどこでも構わん」
「じゃあ防音設備万全の宿に――」
「お主は一体、何をする気じゃ……」
「何って、そりゃあ」
「妾を変な目で見るでない!」
熟れたリンゴのように、顔を真っ赤にして俺を見つめる。
可愛い……じゃなくて。言いたいのは別の事。
「変な目ってな……二百年以上もお預け食らってるこっちの身にもなってくれ。俺でなければ、夜中に襲われてるぞ」
ノアは大抵、この手の会話、しかも押しに弱い。
「ううっ……。し、翔馬は、したいのか?そ、そういう事」
急にしおらしくなるノア。効果は覿面(てきめん)って訳だ。
「したい。したいけど、ノアに嫌われるよりはマシだからしない」
ありのままをぶつけると、ノアは――。
「わわわ妾は翔馬がどどどどうしてもと言うなら、か、構わんぞ?」
動揺する。
「ま、何度も言ってるけど、無理をする必要はないよ。ノアの方からその気になったら言ってくれ。俺はいつでもウェルカムだから」
それを俺が冗談めかして宥める。
毎度決まったパターンだ。
これが結構面白いから止められない。いつもと違うノアが見られるので、三ヶ月に一回くらいはこんな遣り取りをする。
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