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あれから3年。
高校に来るや、慎悟は気持ちが重くなる。
「…おはようございます。」
挨拶にも覇気がない。
高校生1年生になった慎悟は市に組み込まれる形で町の魔物の退去を行いながら…治安維持に勤めていた。
市が後ろ楯になってからは動きやすくなったのだが、いろいろ問題があるとかで基本的に正体は隠す。
変わった事があることといえば…『留学生』が増えたことだ。
外国との交流の名目で、異世界の人間が葡萄酒橋市にやってくるようになったのだ。
松醐市長は異世界の文化に非常に興味があるらしい。
異世界の文化から得た技術や工芸をモチーフにした作品を他の都市に売ることでかなりの資金が捻出出来た。
当面はうるさい市民をそれで黙らせられるだろう。
で、今回も慎悟は特例で留学生を一人異世界から連れてくるように言われた。
正確には調査隊の案内だ…調査隊員を数人と探索機を異世界に護送する。
異世界への移動は数名だけなら苦痛ではない…問題は、行った先だ。
異世界なんだから、どんな世界かは分からない。
ゲームのような世界で魔物に食われかけたこともあるが、慎悟は何とか耐えきった。
ちなみに雫はまだチカラに目覚めていなかった。
彼女には本当に超能力の才能が無いかもしれない。
「おはよう楓座くん…いつも大変ね。
今回は『案内』だって?」
唯一の救いは、自分をいたわってくれる目の前の一人の少女だけ。
セミロングの黒髪で浴衣と白い花が似合うような女子。
多少気弱そうで頼りないが、真面目で家事全般は一通りこなせる。
松醐 裕奈(まつご ゆな)。
市長の娘で、慎悟の婚約者だ。
楓座と葡萄酒橋市な契約の証に市長から差し出された。
モノみたいだが、本人には政略の婚約者としての覚悟はあるらしい。
慎悟ももとより予想済みの話だったのですんなり受け入れた。
事情も知っているので、気楽に話せる仲だ。
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