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「とはいえ、感情論だけではまだまだですけどね。
世の中には感情だけではどうにも出来ないことってたくさんあるじゃないですか。」
人生すらすっぱり諦めたようなコリンの言葉。
彼は何を背負って今まで生きてきたのだろうか?
「でも…私はみんなが笑って暮らせたら…。」
理想論でしかなかった。
「英雄という肩書きを狙って仲間を蹴落としてのし上がる連中が集まってくるんですよ。」
淡々と非情な言葉が返って胸が痛くなる。
「誰しもが君みたいな平穏を求めている訳じゃない。
僕と君が生きてきた世界は違うのだから…笑っていたらどうにかなるなんて甘い考えは捨てて下さい。
人間、そこまで単純じゃないのだから。」
切り捨てていく。
分かっている…でも一緒に暮らすなら仲良くしたいというのは彼女の気持ちであった。
友達…幸せ…そんなことは当たり前であり、誰しもが心に持っていると信じていた。
だが違った…自分の意見が通じない人間も世の中にはたくさんいる。
そんなことさえ、彼女は理解出来なかった。
「では…行きますか。」
やがて、支度が終わり…コリンは菜緒を伴って学校に向かう。
その手は優しくて…少し固かった。
病気で寝ていたとは思えないほど。
「コリンって病気らしいけど…ずいぶん手が固いんだね…。」
疑問をそのままぶつける。
壁のようなものを感じる少年は少し戸惑ったあと、答えてくれた。
「剣を…握らねばなりませんから。」
病気だった人間の言葉とは思えなかった。
「えっ?」
聞き間違いかと耳を疑う。
「ロプセンベルクには英雄の肩書きが欲しい人間が集まるって言ったでしょ?
剣を使えないとライバルは斬られますからね。」
ことも気なく口にするが、菜緒はその殺伐とした競争社会に身震いがした。
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