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次の日、父は市役所にて直談判を行った。
横に手は回すが、市民の暴動もあるんだから裏口だけでは納得されない。
父はとにかく真剣だった。
法律を盾に先祖代々守ってきた土地を買い上げられても困る。
こういうときに、法律は恐ろしい。
楓座の家は嫌がらせを受けているが…『正当防衛』で何かやったら、それこそ犯罪者になって土地を取り上げられるのだ。
とにかく必死でなだめるしかない。
戦争になれば、守るべき町が消える。
楓座の使命から解き放たれるのは幸せだろうが、そんな生易しいことにはならんのだ。
町が守れなければ、すべてが終わる。
世界のために、終わらせてやらねばならないのだ。
「…ですから、何とか市民の皆さんには…。」
土地を守りたい一心で、父はひたすら頭を下げた。
「無理でしょう。
たとえあの樹を文化遺産にしたって、納得しないんじゃないですかね?」
やっぱり納得しないだろうな。
争いを避けるため伝承すら隠蔽してきた大樹には、人間がそこまで守る歴史的価値の理由がないのだ。
普通の人間の日々の生活と生命を天秤にかけるだけの重さなんか知られなかった。
何も知らぬ人間にとっては、ただ通行の邪魔になるデカい樹でしかない。
さっさと切らねばならない。
「でも、あの大樹はご先祖様から頂いた大切な大樹なんです!
失うことになってはもうご先祖様に顔向けが…。」
「黙れ社会への不適合者が。」
担当役員はボソリと呟いた。
時折来る、市民の不平不満をすべて笑顔にて電話で対応してきたのだから…いつキレてもおかしくない。
とうとう我慢の限界に来たようだ。
「もうこちらは市民の要望を無視出来ないんですよ?
そろそろこちらからお話をしようと思っていたところです!」
担当の目が血走っている。
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