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*茶猫* 『vanilla』 そう書いた看板があるお店だった。 近付きたいのは山々だが、女の子たちが沢山入り口にひしめき合っており、近付けそうにない。 茶「クン、クン。 間違いないよ、白ちゃん! この匂いだ!」 電柱に隠れ、僕は鼻をピクピクさせた。 色んな匂いが充満する街中だが、僕の鼻は店内から溢れている匂いを感知した。 隣に立つ白ちゃんを見れば、白ちゃんは複雑そうな表情を浮かべていた。 白ちゃんの鼻にも匂いが届いたみたいだ。 同じ甘い香りでも、店によって香りに違いがある。 人間にはわからない僅かな違いを、僕たち猫には感知出来る。 白「ここまで来たけど、これ以上は無理じゃないかなぁ?」 茶「白ちゃん、それでもオス!? ここまで来てのこのこ帰れちゃうの!? どうせね、明日には女と会うんだからね!」 うっ、と言葉を詰まらせる白ちゃん。 ビビる気持ちはわかるが、僕の好奇心には勝てっこない。 白ちゃんの意見なんて無視だ。 女の子たちは中にいるであろうイケメンに夢中なのをいいことに、僕は電柱から走り出した。 白「まっ、待てって! どこ行くつもりだよ!」 真っ正面からが無理なら、裏口だ。 必ずあるはずだ。 「返してください。」 「何を? お前の心、とか?」 「……っ! ふざけんなっ! 俺ん家の鍵に決まって……なっ!?」 掛けてきた僕の耳に届いたふたりの声。 声を潜めているが、わかる。 ひとりは家主だ。 もうひとりは聞き覚えのない、男の声だ。 僕の身体は一瞬固まってしまった。 会話からしておかしいからだ。 僕の思っていたことが壊れていく。 茶「うそ、でしょ?」 一歩、一歩僕は近付いていく。 ふたりの声がした方へと。
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