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叩かれるかと思いきや、彼は哀しげに顔を歪ませていた。
「んだよ、猫にまで嫌われちまったよ……っ。」
どしゃ降りになる雨を受けながらそこに立つ彼。
その目は赤く充血していた。
俺、……悪いことしたかなぁ。
ズキッと胸が痛む中、彼はハッとして家に戻っていった。
かと思えば、すぐに彼は戻ってきた。
膝掛けを二つ折りにして地面に置くと、それが濡れないように傘をそこに置いた。
その前に小さな小皿を置いたのだが、そこからは甘いいい匂いがした。
「風はそんなに強くねぇから飛ばねぇと思う。
そこで寝ちまうと、風邪引いちまうだろ?」
その傍に立って見下ろしてくる彼に俺は動けなかった。
どっ、どうしよう。
うーん、……他行こう。
匂いに惹かれつつも一生懸命身体を立たせ、俺は彼に背を向けた。
俺たち野良は知っている。
誰もがいい人とは限らないと。
「はぁっ!?
待てよ!
なぁ……っ、行くなよ……っ!
行かないでよ……っ!」
振り返ると、彼は切なそうに俺を見ていた。
今更ながら、彼は俺用の傘しか持ってきていなかった。
雨にただ濡れていたくなる程、彼は傷付いているみたいだ。
もしかしてさっき出ていった人と喧嘩してたのって……彼なのかな?
きっと行かないでは、さっき出ていった相手に言いたくても言えなかった言葉だろう。
引っ掻いてしまった罪悪感のせいか、俺はまた動けずにいた。
そんな俺の目に写る彼は弱々しく家に戻っていった。
猫相手に何言ってるんだかと、ブツブツ口にしながら。
ベランダの鍵をかけ、カーテンを彼は閉めきった。
きっと俺が近付けるように。
その優しさに甘え、皿のミルクを食してから傘の下にある毛布で一夜を過ごした。
それからだ。
俺が彼の優しさに甘え続けているのは。
未だ謝ることが出来ずに。
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