甘い青春と旅立ち【Ⅰ】

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俺の就職先は、既に決まっている。 俺の親代わりである叔父貴の会社の関連企業のIT会社だ。 コネ入社といえばそれまでだが、叔父貴に頼まれて、そこで働くことになった。 叔父貴曰く、武者修行に行ってこい!ということらしい。 なので、不況の就職難で就活に勤しむ学生達を横目に、俺は苦労せず、サクサクと就職先が決まってしまった。 それに引き替え、文香の…女性の就活は、更に厳しいようだ。 文香の志望する職種は狭き門だ。 文香は短大で勉強したものを活かしたいらしく、文具や雑貨などのデザインを手掛けたいらしい。 だから、志望する企業も絞られてくる。 「あたしの亡くなった父は、実は文房具屋さんをしてたんです。 ほとんど覚えてないけど、文具に囲まれた父の背中はなんとなく覚えているんです…」 そう言って、微かな記憶の中に父の面影を追い、はにかむ文香。 そんな風に儚く笑う文香を見て、俺はなんとか彼女が志望する企業に就職出来ればいいなと切に願っている。 ・
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