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「すみません。北南大学のほうへ。大学近くになったら、また道を説明します」
運転手にそう告げると、タクシーは発車した。
タクシーの中でも、俺は彼女の手を離すことはしなかった。
「文香、大学付近になったら、家の場所教えて。
それまで寝てていいよ」
「大丈夫です」
「クスッ…さっき大丈夫じゃないって言ったじゃん」
「そですね…フフッ」
彼女が柔らかい表情で笑ったから、俺もつられる。
「…崎村さんといると、ホント調子狂っちゃう」
「何?クレーム?」
「そ…ですよ。
もうあんまり…ビックリさせ…ない…で…」
彼女の声が途切れ途切れになるとともに、彼女の瞼が次第に重くなっていき、規則的な息遣いが聞こえてきた。
寝ちゃったな…
彼女は窓にもたれて、ぐっすりと寝ている。
こんな、もたれるのに調度良い肩が隣にあるっていうのにな…
俺は空いてる手で、彼女の頭をそっと動かし、俺の肩へ乗せた。
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