甘い香り【Ⅲ】

19/40
前へ
/227ページ
次へ
「文香、文香。もうすぐ着くよ。 文香、起きて」 彼女を揺すって起こしたが、全然起きない。起きる素振りさえ見せない。 そして、パン屋の前で停車してもらい、身体を揺すったり、軽く頬を叩いたりして何度も起こすが、全く起きる気配がない。 おいおい…どんだけ爆睡だよ 「お客さん…こりゃあ起きないよ。どうします?」 運転手もさすがに呆れ顔だ。 「はぁー…仕方ないな… すみません。じゃ、右折して、バイパスの方へ出て下さい」 結局、文香を起こすのを諦め、俺の自宅へ向かうことにした。運転手に俺ん家までの道を伝える。 生き地獄が継続か 文香も酷なことを強いるよなぁ… 「お客さん、着きましたよ」 タクシーが俺ん家のマンションのエントランス前に停車し、俺は料金を支払った。 念のためもう一度、文香を起こすけど、やっぱり反応なし。 「はあぁぁーー…」 無意識に盛大な溜息が出る。 俺は意を決して、彼女を抱き抱えて、降車した。 ・
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19385人が本棚に入れています
本棚に追加