甘い香り【Ⅲ】

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「とりあえず、ベッドに寝かせるしかないよな…」 玄関先で靴を脱ぎながら、当たり前なことを独り言で零す。 「あ…」 俺、自分んちに女の子上げたの初めてだ。 突然そのことに、今、気付いた。 昔から、付き合ってる子にどんなにねだられても、自分の家へ入ることは断った。 自分のテリトリーを侵されるのが嫌だったからだ。 それが、今はどうだ。 彼女だと全く躊躇いがない。 「ホントに… 初めてのことばかりだな…」 俺はまた独り呟いて、彼女を抱いたまま、寝室へと足を向けた。 そして、彼女をそっとベッドに降ろすと、ふと足元に視線がいく。 あ…靴、脱がせないとな。 俺は腰を屈めて、横たわる彼女の足から靴を脱がせる。 相変わらず熟睡中のお姫様。 膝を曲げて、縮こまるような彼女の寝姿を見下ろし、途端に抱きしめたい衝動に襲われる。 …俺、どこまで持つかな…? やりきれないジレンマと戦う。 「……風呂、入ろ」 とりあえず、お姫様に布団をかけ、この甘い誘惑の空間から脱出することにした。 ・
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