甘い香り【Ⅲ】

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俺を映しながら、遠くを見ているような、揺れる彼女の瞳 何かに怯えている? 何に迷っている? 俺に? それとも傷ついた過去に? 俺は彼女の答えを待った。 すると、彼女の唇が震えながら、ようやく開く。 「今なら…引き返せるの?」 震える声でそう言うと、彼女の揺れる瞳から、一滴の涙がこぼれ落ちた。 綺麗な涙に、綺麗な彼女に 俺は息を飲む。 綺麗で儚げな文香 余りにも綺麗で、幻のように消えてしまいそうだ。 「はぁ…ダメだ…ゴメン!」 無理だ。もう無理だ。 こんなに綺麗な彼女を知ってしまったら… 幻のように消えてしまいそうな彼女を見てたら… 「やっぱりもう引き返せない…!」 「あッ!…んン!」 俺は、彼女の存在を確かめるように、激しいキスとともに彼女の身体に触れた。 誰にも渡したくない 俺のものにしたい 俺が見つけた 俺が捕まえたんだ この綺麗な真っ白なうさぎを 甘い香りが更に俺を掻き立てる。 俺の指先や舌の動きに合わせて、文香の甘い声が、吐息が響く。 彼女は、今、確かに俺の腕の中にいる。 ・
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