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ガラリとはしているが、どこか懐かしさを感じる和室で、石油ストーブが爆発音と共に動き始めた。
俺は泣き晴らしたあとのぼんやりとした頭で、畳の線模様をある自分だけの法則に乗っ取って数えてみる。
隣に座るゼロワンは、初めて生で見る和の空間を、キョロキョロと艶のある肩までの髪を揺らしながら見回している。
「入りますよ。ココアで良かったですか?」
襖が開いて、お盆を持った勇典さんが摺り足で入ってきた。
「寒かったでしょう。どうぞ」
何も言わない俺たちの前に湯気があがるホットココアが出される。
いただきます、とゼロワンがそれに手を伸ばす。
火傷をしないように上手に啜る音に漸く顔を上げ、俺もいただきます、とカップを手に取った。
かじかんでいた指先がジンジンと解れていくのを噛み締める。
一口含んで、ふと思った。
この寺で初めてココアと言うものを出してもらったと。
いつもは煎茶、番茶、豆茶、麦茶――――
まあ、兎に角お茶だ。
この寺にココアなるものがあった事に少し感動を覚えながら、何となく横目でゼロワンを見てみた。
見てる。
凄く見てる。
勇典さんの頭を。
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